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【弁護士解説】東京メトロコマース事件最高裁判決の労務実務への影響【同一労働同一賃金】

2020-10-18

弁護士法人戸田労務経営の所長弁護士の戸田です。

大阪医科大学(大阪医科薬科大学)事件・東京メトロコマース事件最高裁判決が先日10月13日に出されました。

同一労働同一賃金については、2018年にハマキョウレックス・長澤運輸事件最高裁判決が出され、世間の注目を集めました。

そして、2019年12月には厚労省から同一労働同一賃金のガイドラインが確定し、パート・有期労働法の改正も今年2020年4月1日から施行されています(中小企業は2021年4月)。

中小企業を始めとした各企業では、同一労働同一賃金への対応を早急に行う必要に迫られ、待ったなしで規則改正・賃金制度の見直し等を進めていました。

そんな中、対応方法で一番の悩みがあったのは、賞与と退職金です。

これらについては、いずれも正社員のみを対象とした制度設計が現在は大多数です。

同一労働同一賃金に沿ってパート・有期労働者に一律に適用すると、各企業の固定費の増加にとどまらず、賞与や退職金制度の位置づけと企業内の従業員の在り方を含め、相当に大きなインパクトがあります。

2020年10月13日に出された大阪医科大学(大阪医科薬科大学)事件最高裁判決、メトロコマース事件最高裁判決は、これらについて一定の判断を示したもので、極めて大きな意味を持ちます。

人事労務管理への影響も多大であるため、詳細に分析を試みました。

 

東京メトロコマース事件最高裁判決の事案

まずは事案内容です。

東京メトロコマースでは、正社員・契約社員A・契約社員Bという3つの雇用区分があります。

X2は平成16年4月,第1審原告X1は同年8月,それぞれ契約社員Bとして第1審被告に採用され,契約期間を1年以内とする有期労働契約の更新を繰り返しながら,東京メトロの駅構内の売店における販売業務に従事していた。第1審原告X2については平成26年3月31日,第1審原告X1については同27年3月31日,いずれも65歳に達したことにより上記契約が終了した。

【雇用形態・配属等の比較】

まずはその区分に従った配属等の社内区分に関し、最高裁に認定事実を整理してみました。

 

正社員

契約社員A

(H28.4~職種限定社員)

契約社員B

雇用形態

無期・フルタイム

契約期間を1年とする有期労働契約を締結

H28.4~無期に変更

契約期間を1年以内とする有期労働契約を締結

規則

正社員用

契約社員A用

契約社員B用

定年

65歳

同期間満了後は原則として契約が更新され,就業規則上,定年(更新の上限年齢)は65歳

65歳

配属

本社の経営管理部,総務部,リテール事業本部及びステーション事業本部の各部署に配置されるほか,各事業本部が所管するメトロス事業所,保守管理事業所,ストア・ショップ事業所等に配置される場合や関連会社に出向する場合もあった。平成25年度から同28年度までにおける第1審被告の正社員(同年度については職種限定社員を含む。)は560~613名であり,うち売店業務に従事していた者は15~24名であった。

契約社員Bのキャリアアップの雇用形態として位置付けられ,本社の経営管理部施設課,メトロス事業所及びストア・ショップ事業所以外には配置されていなかった。

一時的,補完的な業務に従事する。

 

労働時間

本社では1日7時間40分(週38時間20分),売店勤務では1日7時間50分(週39時間10分)

 

大半の者が週40時間と定められていた

職務限定

なし

あり?

あり(業務の場所の変更を命ぜられることはあったが,業務の内容に変更はない)

人事異動

業務の必要により配置転換,職種転換又は出向を命ぜられることがあり,正当な理由なく,拒むことはできない。

 

配置転換や出向を命ぜられることはなかった。

【賃金等の待遇の比較】

次に、賃金等の待遇面についての最高裁の認定について社員間の比較を表にしました。

 

正社員

契約社員A

(H28.4~職種限定社員)

契約社員B

体系

月給制

月給制

時給制

内訳

(基準賃金)

本給(年齢給※1+職務給※2),資格手当又は成果手当,住宅手当、家族手当

(基準外賃金)

年末年始勤務手当,深夜労働手当,早出残業手当,休日労働手当,通勤手当

※1年齢給:18歳の5万円から始まり,1歳ごとに1000円増額され,40歳以降は一律7万2000円

※2職務給:三つの職務グループ(スタッフ職,リーダー職,マネージャー職)ごとの資格及び号俸により定められ,その額は10万8000円から33万7000円まで。

・本給16万5000円

・深夜労働手当,早出残業手当,休日労働手当,早番手当,通勤手当その他の諸手当が支給

本給は業務内容,技能,経験,業務遂行能力等を考慮して個別に定める,

X入社時は一律1000円であったが,平成22年4月~毎年10円ずつ昇給。

年末年始出勤手当,深夜労働手当,早出残業手当,休日労働手当,通勤手当,早番手当,皆勤手当(資格手当又は成果手当,住宅手当、家族手当は支給なし。)

昇給

昇格・昇給制度あり

本人の勤務成績等による昇給制度あり

 

賞与

年2回

平成25年度~同29年度までの各回の平均支給実績 本給の2か月分に17万6000円を加算

年2回の賞与(年額59万4000円)が支給

年2回(各12万)

退職金

退職金規程により,計算基礎額である本給に勤続年数に応じた支給月数を乗じた金額を支給

支給しない

(H28.4の職種限定社員に変更された後は退職金制度が設けられた)

支給しない

褒賞

勤続10年及び定年退職時に金品が支給

なし

なし

【Xの雇用契約の内容】

就業場所

リテール事業本部メトロス事業所管轄METRO’S売店

業務の内容

売店における販売及びその付随業務

所定労働時間

1日8時間以内(週40時間以内)

【業務内容と正社員登用制度】

続いて、売店業務に従事する従業員についてです。

 

正社員

契約社員A

(H28.4~職種限定社員)

契約社員B

従業員数

18

14

78

平成28年3月には,売店業務に従事する従業員が合計56名に減少し,このうち正社員は4名となった。

共通する業務

売店の管理,接客販売,商品の管理,準備及び陳列,伝票及び帳票類の取扱い,売上金等の金銭取扱い,その他付随する業務

代務業務

販売員が固定されている売店において休暇や欠勤で不在になった販売員に代わって早番や遅番の業務を行う

正社員と同様

行わない

エリアマネージャー業務

複数の売店を統括し,売上向上のための指導,改善業務や売店の事故対応等の売店業務のサポートやトラブル処理,商品補充に関する業務等を行う

正社員と同様

行わない

正社員登用制度

契約社員B⇒契約社員A,契約社員A⇒正社員への登用制度が平成22年度から導入。

原則として勤続1年以上の希望者全員に受験が認められていた。

平成22年度~同26年度,契約社員Aへの登用試験につき受験者合計134名のうち28名が,正社員への登用試験につき同105名のうち78名がそれぞれ合格。

 

争点

期間の定めのある労働者に対して退職金を支給しないことが労働契約法20条にいう不合理な取り扱いになり違法となるか

 

東京高裁の判断

 東京高裁では以下のように判断し、Xの請求を一部認めました。

一般に,退職金には賃金の後払い,功労報償等の様々な性格があるところ,長期雇用を前提とする無期労働契約を締結した労働者(以下「無期契約労働者」という。)に対し,福利厚生を手厚くし,有為な人材の確保及び定着を図るなどの目的をもって退職金制度を設ける一方,本来的に短期雇用を前提とした有期労働契約を締結した労働者(以下「有期契約労働者」という。)に対し,これを設けないという制度設計自体は,人事施策上一概に不合理であるとはいえない。

もっとも,第1審被告においては,契約社員Bは契約期間が1年以内の有期契約労働者であり,賃金の後払いが予定されているとはいえないが,原則として契約が更新され,定年が65歳と定められており,実際に第1審原告らは定年により契約が終了するまで10年前後の長期間にわたって勤務したことや,契約社員Aは平成28年4月に職種限定社員として無期契約労働者となるとともに退職金制度が設けられたことを考慮すれば,少なくとも長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金,具体的には正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する額すら一切支給しないことは不合理である。

したがって,売店業務に従事している正社員と契約社員Bとの間の退職金に関する労働条件の相違は,労使間の交渉や経営判断の尊重を考慮に入れても,第1審原告らのような長期間勤務を継続した契約社員Bに全く退職金の支給を認めない点において,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たる。

⇒契約社員Bにおいて、契約更新が長期間継続した事実関係を重視。

 

最高裁の判断

ベースとなる考え方について

最高裁は、まず以下のようにして退職金の不支給についての労働条件の相違が労働契約法20条違反になり得るとの規範を示しました。

労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の格差

が問題となっていたこと等を踏まえ,有期契約労働者の公正な処遇を図るため,その労働条件につき,期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり,両者の間の労働条件の相違が退職金の支給に係るものであったとしても,それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。

もっとも,その判断に当たっては,他の労働条件の相違と同様に,当該使用者における退職金の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより,当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである。

これは、リーディングケースとなっているハマキョウレックス事件(最二小平成30年6月1日)を引用していないものの、その判断基準は同じです。一足先に出された大阪医科大学事件最高裁判決ともおおむね同様の言い回し。

 

退職金の性質

続いて、最高裁はYでの退職金の性質を次のように判断しています。

第1審被告は,退職する正社員に対し,一時金として退職金を支給する制度を設けており,退職金規程により,その支給対象者の範囲や支給基準,方法等を定めていたものである。

そして,上記退職金は,本給に勤続年数に応じた支給月数を乗じた金額を支給するものとされているところ,その支給対象となる正社員は,第1審被告の本社の各部署や事業本部が所管する事業所等に配置され,業務の必要により配置転換等を命ぜられることもあり,また,退職金の算定基礎となる本給は,年齢によって定められる部分と職務遂行能力に応じた資格及び号俸により定められる職能給の性質を有する部分から成るものとされていたものである。

このような第1審被告における退職金の支給要件や支給内容等に照らせば,上記退職金は,上記の職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払い継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり,第1審被告は,正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から,様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものといえる。

退職金の性質論としては東京高裁の認定判断と大枠は異なっていないと思います。しかし、東京高裁は、その性質論からストレートに当てはめているのに対し、最高裁では、メトロコマースで退職金がなぜ正社員に対してだけ支給されているのかという目的についても踏み込んでいます。

正社員が様々な部署で配置されることを想定し、その人材確保や定着を狙った制度として退職金を設けたという点です。退職金制度の目的認定が結論への前振りになっています。

ところで、最高裁は、メトロコマース退職金の算定ベースの賃金性質にも遡っているのが面白い。ここでの賃金は日本型賃金の典型である「職能給」(年齢と職務ごちゃ混ぜ)なので、退職金の性質としても、賃金後払い・功労報酬的性質が強くなるという理屈でしょう

これは、最高裁が、日本の旧来型の基本給に同一労働同一賃金で踏み込むことに線引きをした姿勢とも受け取れます。

ふと、退職金を保険積立方式等にしている場合はどうだろうかという気もしますが、それでも退職金の性質が変動するわけではないですよね。

 

業務内容と業務の責任の程度

 ここは、上記の表のとおり、Xの業務の内容の違いや配置転換の可能性について言及しています。

両者の業務の内容はおおむね共通するものの,正社員は,販売員が固定されている売店において休暇や欠勤で不在の販売員に代わって早番や遅番の業務を行う代務業務を担当していたほか,複数の売店を統括し,売上向上のための指導,改善業務等の売店業務のサポートやトラブル処理,商品補充に関する業務等を行うエリアマネージャー業務に従事することがあったのに対し,契約社員Bは,売店業務に専従していたものであり,両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できない。

また,売店業務に従事する正社員については,業務の必要により配置転換等を命ぜられる現実の可能性があり,正当な理由なく,これを拒否することはできなかったのに対し,契約社員Bは,業務の場所の変更を命ぜられることはあっても,業務の内容に変更はなく,配置転換等を命ぜられることはなかったものであり,両者の職務の内容及び配置の変更の範囲(以下「変更の範囲」という。)にも一定の相違があったことが否定できない。

 

その他の事情として売店業務正社員がレアであること+正社員登用制度を指摘

 上記以外の「その他の事情」についても触れています。

最高裁では、不合理じゃないことを説明する際には「その他の事情」に色々な事情を盛り込んでくる傾向がありますね。

第1審被告においては,全ての正社員が同一の雇用管理の区分に属するものとして同じ就業規則等により同一の労働条件の適用を受けていたが,売店業務に従事する正社員と,第1審被告の本社の各部署や事業所等に配置され配置転換等を命ぜられることがあった他の多数の正社員とは,職務の内容及び変更の範囲につき相違があったものである。

そして,平成27年1月当時に売店業務に従事する正社員は,同12年の関連会社等の再編成により第1審被告に雇用されることとなった互助会の出身者と契約社員Bから正社員に登用された者が約半数ずつほぼ全体を占め,売店業務に従事する従業員の2割に満たないものとなっていたものであり,上記再編成の経緯やその職務経験等に照らし,賃金水準を変更したり,他の部署に配置転換等をしたりすることが困難な事情があったことがうかがわれる。

このように,売店業務に従事する正社員が他の多数の正社員と職務の内容及び変更の範囲を異にしていたことについては,第1審被告の組織再編等に起因する事情が存在したものといえる。

また,第1審被告は,契約社員A及び正社員へ段階的に職種を変更するための開かれた試験による登用制度を設け,相当数の契約社員Bや契約社員Aをそれぞれ契約社員Aや正社員に登用していたものである。

これらの事情については,第1審原告らと売店業務に従事する正社員との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり,労働契約法20条所定の「その他の事情」(以下,職務の内容及び変更の範囲と併せて「職務の内容等」という。)として考慮するのが相当である。

 売店業務に従事する正社員がレアという認定をして「その他の事情」で使っています。これは大阪医科大事件の教室職員の正社員がレアという事情を「その他の事情」で検討したのと同じです。

 

勤続年数が長かった点はどうか

 高裁判決では、契約社員Bが長期雇用を想定していることを重視したベクトルでした。しかし最高裁は以下のようにあっさりとこの点を排斥しています。

第1審被告の正社員に対する退職金が有する複合的な性質やこれを支給する目的を踏まえて,売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容等を考慮すれば,契約社員Bの有期労働契約が原則として更新するものとされ,定年が65歳と定められるなど,必ずしも短期雇用を前提としていたものとはいえず,第1審原告らがいずれも10年前後の勤続期間を有していることをしんしゃくしても,両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは,不合理であるとまで評価することができるものとはいえない。

 

 

職種限定社員に退職金制度が設けられたことはどうか

 また、Xら契約社員Bと同じく期間の定めのある契約社員である契約社員Aについては、職種限定社員という無期雇用区分に変更されて退職金が支給されるようになりました。

 契約社員Bと同じ立場の契約社員Aにも退職金が出るのであれば、契約社員Bに対しても退職金を支給しないと不合理だという論建てがあり得るところですが、最高裁は以下の通り判断しました。

契約社員Aは平成28年4月に職種限定社員に改められ,その契約が無期労働契約に変更されて退職金制度が設けられたものの,このことがその前に退職した契約社員Bである第1審原告らと正社員との間の退職金に関する労働条件の相違が不合理であるとの評価を基礎付けるものとはいい難い。

また,契約社員Bと職種限定社員との間には職務の内容及び変更の範囲に一定の相違があることや,契約社員Bから契約社員Aに職種を変更することができる前記の登用制度が存在したこと等からすれば,無期契約労働者である職種限定社員に退職金制度が設けられたからといって,上記の判断を左右するものでもない。

 結局、契約社員AとBには差があるでしょう、ということが根底にあります。

林景一裁判官の補足意見

 補足意見については、より企業の実情に踏み込んだ「本音」が垣間見えます。最高裁が重視したのは、結局のところは退職金をどうやって決めて、どうやって運用しているかという企業の実態です。

 退職金は,その支給の有無や支給方法等につき,労使交渉等を踏まえて,賃金体系全体を見据えた制度設計がされるのが通例であると考えられるところ,退職金制度を持続的に運用していくためには,その原資を長期間にわたって積み立てるなどして用意する必要があるから,退職金制度の在り方は,社会経済情勢や使用者の経営状況の動向等にも左右されるものといえる。そうすると,退職金制度の構築に関し,これら諸般の事情を踏まえて行われる使用者の裁量判断を尊重する余地は,比較的大きいものと解されよう。

長澤運輸事件の冒頭に述べられたことにも若干被る気がします。労働条件の決定については各企業の実情や労使交渉を経て決定すべきとの理屈ですね。

退職金には,継続的な勤務等に対する功労報償の性格を有する部分が存することが一般的であることに照らせば,企業等が,労使交渉を経るなどして,有期契約労働者と無期契約労働者との間における職務の内容等の相違の程度に応じて均衡のとれた処遇を図っていくことは,同条やこれを引き継いだ短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条の理念に沿うものといえる。

現に,同条が適用されるに際して,有期契約労働者に対し退職金に相当する企業型確定拠出年金を導入したり,有期契約労働者が自ら掛け金を拠出する個人型確定拠出年金への加入に協力したりする企業等も出始めていることがうかがわれるところであり,その他にも,有期契約労働者に対し在職期間に応じて一定額の退職慰労金を支給することなども考えられよう

 上記については、企業の取るべきあり方が示唆されているような印象ですが、正直理論的とは言い難いところもあります。

 

労務管理への対応について(私見)

最高裁の結論について

 以上から、最高裁は退職金の不支給を違法ではないと判断しました。

 メトロコマースの契約社員については職務内容がかなり正社員と共通した事例でして、しかも勤続年数もそれなりです。この事案で退職金が認められなかったとなれば、事実上、労働者が裁判所で退職金の待遇格差を争うのはかなり厳しくなった印象です。

 最高裁の判断は決して論理的とは言い難い面もありますが、結局は「退職金」という性質・支給目的を最大限重視したのだと思います。もとより日本の同一労働同一賃金は、労働契約の合意原則に対する例外的な「法の介入」出会って抑制的に考えるべきとの見解もあります(土田道夫教授など)。

 個人的には、退職金についてはその性質論や支給目的について企業の個別判断を尊重することが重要と考えます。これを抜きに、法が退職金制度の改定を後押しするのは流石に労働契約法理にそぐわない。

 この最高裁の結論自体は妥当なものであると思います。

 

 

最高裁判決を踏まえての対応

 最高裁判決は旧労働契約法20条についてのものですが、この規定はパート・有期労働法8条に引き継がれているため、今後も先例としての重要な意味を持ちます。

 最高裁の判断として、パート・有期従業員に一切退職金を払わなくてもよいという話にはなっていませんが、上で述べたとおり、この事案で否定された影響は大きいです。事実上裁判実務では退職金を争うのは結構厳しい。

 とはいえ、企業でも単にパート・有期従業員に退職金を一律に出さないというのではなく、人材活用の仕組み等にも踏み込んで、正社員になぜ退職金を支給するのかについての制度設計をきちんと見直すことは必要です。

 退職金制度の在り方についても重要。慰労金的なものを裁量で出すとしていた慣行でやってきた会社も、支給基準を考えておく必要はあります。

 最高裁の認定からすれば、旧来型の勤続年数に従って支給係数を乗じる方法でも、長期雇用確保の目的に資する制度となりますが、その内容を含めてしっかりと退職金規程を整備しておきたいです。

 また、最高裁でも触れられていた正社員登用制度等、正社員へのルートを開けたものにしておくことは結構重要かもしれません。

 重要なことは労使交渉・協議を重ねる。少なくともしっかりとした制度説明を行うことです。これは長澤判決から一貫したベクトルでして、パート・有機労働法においても求められる説明責任でしょう。

 以上のように労務管理について非常に大きな判決となっています。

 

【弁護士解説】大阪医科大学(大阪医科薬科大学)事件最高裁判決の労務実務への影響【同一労働同一賃金】

2020-10-16

弁護士法人戸田労務経営の代表弁護士の戸田です。

大阪医科大学(大阪医科薬科大学)事件・東京メトロコマース事件最高裁判決が先日10月13日に出されました。

同一労働同一賃金については、2018年にハマキョウレックス・長澤運輸事件最高裁判決が出され、世間の注目を集めました。

そして、2019年12月には厚労省から同一労働同一賃金のガイドラインが確定し、パート・有期労働法の改正も今年2020年4月1日から施行されています(中小企業は2021年4月)

中小企業を始めとした各企業では、同一労働同一賃金への対応を早急に行う必要に迫られ、待ったなしで規則改正・賃金制度の見直し等を進めていました。

そんな中、対応方法で一番の悩みがあったのは、賞与と退職金です。

これらについては、いずれも正社員のみを対象とした制度設計が現在は大多数です。

同一労働同一賃金に沿ってパート・有期労働者に一律に適用すると、各企業の固定費の増加にとどまらず、賞与や退職金制度の位置づけと企業内の従業員の在り方を含め、相当に大きなインパクトがあります。

2020年10月13日に出された大阪医科大学(大阪医科薬科大学)事件最高裁判決、メトロコマース事件最高裁判決は、これらについて一定の判断を示したもので、極めて大きな意味を持ちます。

人事労務管理への影響も多大であるため、詳細に分析を試みました。

(注)以下、四角囲み部分は基本的に最高裁判決の引用です(下線部・赤字装飾は執筆者)

 

大阪医科大学(大阪医科薬科大学)事件最高裁判決の事案

まず、大阪医科大学(大阪医科薬科大学)事件について、最高裁の認定に沿って事実関係をまとめました。

 

Ⅹの契約内容と経緯

平成25年1月29日~3月31日 有期労働契約を締結し,アルバイト職員として勤務。

平成25年4月1日~契約期間を1年3度にわたって更新。

平成27年3月 適応障害と診断,3月9日から出勤せず、同年4月から5月にかけての約1か月間は年次有給休暇,その後は欠勤扱い

平成28年3月31日 退職

 

正社職員とアルバイト職員との違いについてのまとめ

全職員数2600名、正職員(200名)とアルバイト職員(150名)の他、契約社員と嘱託社員が存在。

【労働条件等の比較】

 

正職員

アルバイト職員

雇用形態

無期・フルタイム

有期・短時間勤務者が60%

適用される規則

正職員就業規則

正職員給与規則

正職員休職規程

アルバイト職員就業内規

基本給

月給制

採用時の正職員の職種,年齢,学歴,職歴等をしんしゃくして決定するものとされ,勤務成績を踏まえ勤務年数に応じて昇給

時給制

職種の変更等があった場合に時給単価を変更するものとされ,昇給の定めはなかった。

賞与

Yが必要と認めたときに臨時又は定期の賃金を支給する(規則)

通年4.6か月分が基準

×

支給されず(※)

年次有給休暇

正社員就業規則の定める日数

労基法に定める日数のみ

年末年始・創立記念日の賃金

×

夏期特別有給休暇

×

私傷病による欠勤中の賃金・附属病院医療費補助

私傷病欠勤について、6か月間は給料月額の全額保障,同経過後は休職が命ぜられた上で休職給として標準給与の2割保障

 

×

保障されず

※なお、契約職員には正職員の約80%の賞与が支給

【業務内容・責任等の比較】

 

正職員

アルバイト職員

業務内容

大学や附属病院等のあらゆる業務に携わり,総務,学務,病院事務等多岐に及ぶ。正職員が配置されている部署においては,定型的で簡便な作業等ではない業務が大半を占め,中には法人全体に影響を及ぼすような重要な施策も含まれ,業務に伴う責任は大きい

アルバイト職員就業内規上,雇用期間を1年以内とし,更新する場合はあるものの,その上限は5年と定められており,その業務の内容は,定型的で簡便な作業が中心

配置の変更

(人材活用の仕組み)

出向や配置換え等を命ぜられることがあると定められ,人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われており,平成25年1月から同27年3月までの間においては約30名の正職員がその対象となっていた。

アルバイト職員就業内規上,他部門への異動を命ずることがあると定められていたが,業務の内容を明示して採用されていることもあり,原則として業務命令によって他の部署に配置転換されることはなく,人事異動は例外的かつ個別的な事情によるものに限定

※業務の内容の難度・責任の程度 正職員>嘱託職員>契約職員>アルバイト職員

正社員登用制度

①アルバイト職員⇒契約職員

 受験資格:1年以上の勤続年数があり,所属長の推薦を受けた者

実施状況:受験資格を有する者のうち3~5割程度の者が受験。

平成25年~27年 各年16~30名が受験・5~19名合格

②契約職員⇒正職員。

平成25年~27年 各年7~13名合格。

Xの雇用契約の内容

Xの雇用契約の内容は次のとおりです。

就業場所

本件大学薬理学教室

業務の内容

薬理学教室内の秘書業務

所属する教授や教員,研究補助員のスケジュール管理や日程調整,電話や来客等の対応,教授の研究発表の際の資料作成や準備,教授が外出する際の随行,教室内における各種事務(教員の増減員の手続,郵便物の仕分けや発送,研究補助員の勤務表の作成や提出,給与明細書の配布,駐車券の申請等),教室の経理,備品管理,清掃やごみの処理,出納の管理等

賃金

時給950円

3度にわたる更新の際,時給単価が若干増額

所定労働時間

フルタイム

平成25年4月~同26年3月までの賃金の平均月額

14万9170円

(全てフルタイムで勤務したとすると,月額15~16万円程度。これに対し,平成25年4月に新規採用された正職員の初任給は19万2570円であり,Xと同正職員との間における賃金には2割程度の相違があった。)

 

争点

さて、本件の争点は以下の2点です。

① アルバイト職員に対して賞与を支給しないことが労働契約法20条にいう不合理な取り扱いになり違法となるか

② アルバイト職員に対して私傷病欠勤中の賃金を補償しないことが労働契約法20条にいう不合理な取り扱いになり違法となるか

 

大阪高裁の判断

 大阪高裁では以下のように判断し、Xの請求を認めました。

賞与について(争点①)

Yの正職員に対する賞与は,その支給額が基本給にのみ連動し,正職員の年齢や成績のほか,Yの業績にも連動していない。

そうすると,上記賞与は,正職員としてその算定期間に在籍し,就労していたことの対価としての性質を有するから,同期間に在籍し,就労していたフルタイムのアルバイト職員に対し,賞与を全く支給しないことは不合理である。そして,正職員に対する賞与には付随的に長期就労への誘因という趣旨が含まれることや,アルバイト職員の功労は正職員に比して相対的に低いことが否めないことに加え,契約職員には正職員の約80%の賞与が支給されていることに照らすと,Xにつき,平成25年4月に新規採用された正職員と比較し,その支給基準の60%を下回る部分の相違は不合理と認められるものに当たる。

⇒賞与支給が業績に連動していないことを前提に、賞与が在籍中の就労対価の趣旨であるとのみ判断した。

 業績連動していない点をあえて指摘しているのは、平成30年12月に厚労省が示した同一労働同一賃金のガイドラインを意識しているかもしれません。

【参考平成30年12月28日付厚労省告示第430号・同一労働同一賃金ガイドライン)】

賞与について

賞与であって、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の貢献である短時間・有期雇用労働者には、貢献に応じた部分につき、通常の労働者と同一の賞与を支給しなければならない。

また、貢献に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた賞与を支給しなければならない。

(問題となる例)

イ 賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているA社において、通常の労働者であるXと同一の会社の業績等への貢献が ある有期雇用労働者であるYに対し、Xと同一の賞与を支給していない。

ロ 賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているA社においては、通常の労働者には職務の内容や会社の業績等への貢献等にかかわらず全員に何らかの賞与を支給しているが、短時間・有期雇 用労働者には支給していない。

 

私傷病欠勤中の賃金について(争点②)

Yにおける私傷病による欠勤中の賃金は,正職員として長期にわたり継続して就労したことに対する評価又は将来にわたり継続して就労することに対する期待から,その生活保障を図る趣旨であると解される。

そうすると,フルタイムで勤務し契約を更新したアルバイト職員については,職務に対する貢献の度合いも相応に存し,生活保障の必要があることも否定し難いから,欠勤中の賃金を一切支給しないことは不合理である。

そして,アルバイト職員の契約期間は原則1年であり,当然に長期雇用が前提とされているものではないことに照らすと,Xにつき,欠勤中の賃金のうち給料1か月分及び休職給2か月分を下回る部分の相違は不合理と認められるものに当たる。

このように、私傷病休職中の賃金についても、アルバイト職員に保障しないことが違法と判断されました。

賞与に関する最高裁の判断(争点①)

ベースとなる考え方について

最高裁は、まず以下のようにして賞与の不支給についての労働条件の相違が労働契約法20条違反になり得るとの規範を示しました。

労働契約法20条は,有期労働契約を締結した労働者と無期労働契約を締結

した労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ,有期労働契約を締結した労働者の公正な処遇を図るため,その労働条件につき,期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり,両者の間の労働条件の相違が賞与の支給に係るものであったとしても,それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。

もっとも,その判断に当たっては,他の労働条件の相違と同様に,当該使用者における賞与の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより,当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである。

これは、リーディングケースとなっているハマキョウレックス事件(最二小平成30年6月1日)を引用していないものの、その判断基準は同じです。

 厚生労働省の同一労働同一賃金のガイドラインにも沿った内容。

 

賞与の性質の分析

続いて、最高裁はYでの賞与の性質を次のように判断しています。

Yの正職員に対する賞与は,正職員給与規則において必要と認めたときに支給すると定められているのみであり,基本給とは別に支給される一時金として,その算定期間における財務状況等を踏まえつつ,その都度,Yにより支給の有無や支給基準が決定されるものである。

また,上記賞与は,通年で基本給の4.6か月分が一応の支給基準となっており,その支給実績に照らすと,Yの業績に連動するものではなく,算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償,将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものと認められる。

そして,正職員の基本給については,勤務成績を踏まえ勤務年数に応じて昇給するものとされており,勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給の性格を有するものといえる上,おおむね,業務の内容の難度や責任の程度が高く,人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われていたものである。

このような正職員の賃金体系や求められる職務遂行能力及び責任の程度等に照らせば,Yは,正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から,正職員に対して賞与を支給することとしたものといえる。

大阪高裁の認定と大きく違うのは、賞与を単に「労務の対価の後払い」とだけ位置付けるのではなく、法人側が都度財務状況を踏まえて決定をすること、そして功労報償や将来に賃金意欲向上等の種々の目的があることを認定した点です。

企業におけるボーナスがどういうものかについては丁寧に考えている。

また、「なぜそれが正社員だけなのか」という問いに対する答えとして、正社員の賃金体系に遡りつつ、人材確保の観点に触れている。

いうなれば、5年上限のアルバイト職員に対してなじまないという理由づけです。

 

業務内容と業務の責任の程度が違う

 ここは、上記の表のとおり、Xの業務の内容の違いや配置転換の可能性について言及しています。

 上記のとおり、賞与の目的としては、正職員の人材活用・人材確保を目的としたものであると言っていることから、配置転換の点についてもフォローしているのだと思われます。

(職務の内容と責任)

両者の業務の内容は共通する部分はあるものの,Xの業務は,その具体的な内容や,Xが欠勤した後の人員の配置に関する事情からすると,相当に軽易であることがうかがわれるのに対し,教室事務員である正職員は,これに加えて,学内の英文学術誌の編集事務等,病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する業務又は毒劇物等の試薬の管理業務等にも従事する必要があったのであり,両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できない

(人材活用の仕組み)

また,教室事務員である正職員については,正職員就業規則上人事異動を命ぜられる可能性があったのに対し,アルバイト職員については,原則として業務命令によって配置転換されることはなく,人事異動は例外的かつ個別的な事情により行われていたものであり,両者の職務の内容及び配置の変更の範囲(以下「変更の範囲」という。)に一定の相違があったことも否定できない。

 

その他の事情も重要

 大学には,平成11年頃、診療科を持たない教室(Xがいた薬理学教室も含む)教室事務員が各教室1,2名ずつ配置され,正職員の教室事務員が9名配置されていました。

ただ、その教室事務員は,業務の内容の過半が定型的で簡便な作業等であったため,大学では,平成13年頃から正職員を配置転換するなどしてアルバイト職員に置き換えて,今回の事件の時期(同25年4月から同27年3月まで),正職員は4名のみに減っていたという経緯があります。あえて教室事務員として正職員を配置していた教室では,学内の英文学術誌の編集事務や広報作業,病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する業務又は毒劇物等の試薬の管理業務等が存在しており,アルバイト職員では対応できないと大学が判断していたという実態がありました。

こうした経緯から、Xと同じ正規の教室事務員は少し大学内でも若干特殊な立場(全正職員200名中4名)なので、単純比較できないよ、と考えているようです。この点についても不合理性の判断の「その他の事情」に該当するという判断です。

(教室事務の配置について)

全ての正職員が同一の雇用管理の区分に属するものとして同一の就業規則等の適用を受けており,その労働条件はこれらの正職員の職務の内容や変更の範囲等を踏まえて設定されたものといえるところ,Yは,教室事務員の業務の内容の過半が定型的で簡便な作業等であったため,平成13年頃から,一定の業務等が存在する教室を除いてアルバイト職員に置き換えてきたものである。

その結果,Xが勤務していた当時,教室事務員である正職員は,僅か4名にまで減少することとなり,業務の内容の難度や責任の程度が高く,人事異動も行われていた他の大多数の正職員と比較して極めて少数となっていたものである。このように,教室事務員である正職員が他の大多数の正職員と職務の内容及び変更の範囲を異にするに至ったことについては,教室事務員の業務の内容やYが行ってきた人員配置の見直し等に起因する事情が存在したものといえる。

(正社員登用制度)

また,アルバイト職員については,契約職員及び正職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたものである。

 

私傷病欠勤中の賃金補償に関する最高裁の判断(争点②)

制度の趣旨解釈

まず、制度の趣旨目的の解釈です。

第1審被告が,正職員休職規程において,私傷病により労務を提供することができない状態にある正職員に対し給料(6か月間)及び休職給(休職期間中において標準給与の2割)を支給することとしたのは,正職員が長期にわたり継続して就労し,又は将来にわたって継続して就労することが期待されることに照らし,正職員の生活保障を図るとともに,その雇用を維持し確保するという目的によるものと解される。

このような第1審被告における私傷病による欠勤中の賃金の性質及びこれを支給する目的に照らすと,同賃金は,このような職員の雇用を維持し確保することを前提とした制度であるといえる。

最高裁は、なぜ大学がこのような制度を設けたかということについて、正職員の長期雇用の維持確保を前提にしたものと判断しています。

ここだけ見ると、大阪高裁の認定とはそこまで大きくは違いません。大阪高裁は、契約更新したアルバイト職員についても、生活保障の必要はあるという認定をしていました。

では、何が判断を分けたのか。

 

Xについて長期雇用を予定した状況にない点も強調

 最高裁は、上記の職務内容の違い、配置転換の可能性、上記の「その他の事情」を前提にして、次のように述べました。

このような職務の内容等に係る事情に加えて,アルバイト職員は,契約期間を1年以内とし,更新される場合はあるものの,長期雇用を前提とした勤務を予定しているものとはいい難いことにも照らせば,教室事務員であるアルバイト職員は,上記のように雇用を維持し確保することを前提とする制度の趣旨が直ちに妥当するものとはいえない

また,第1審原告は,勤務開始後2年余りで欠勤扱いとなり,欠勤期間を含む在籍期間も3年余りにとどまり,その勤続期間が相当の長期間に及んでいたとはいい難く,第1審原告の有期労働契約が当然に更新され契約期間が継続する状況にあったことをうかがわせる事情も見当たらない。したがって,教室事務員である正職員と第1審原告との間に私傷病による欠勤中の賃金に係る労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができるものとはいえない。

 ここでは、アルバイト職員についての契約期間等が指摘されています。

 また、Xの個別の事情からしても契約期間の継続見込み等にも踏み込んでいます。

 ここの個別事情がどこまで影響するのかは微妙ですが、仮に長期の契約更新が続いていたら違う判断もあり得たということでしょうか。そこははっきりしません。

 

労務管理への対応について(私見)

現状

・全く支給がないというのはリスクがあるので、就業規則・賃金規程の整備を行い、契約社員・パート労働者に対しても支払う可能性を明記する対応を進めていた。

・もっとも、パート・アルバイトに対して、いわゆる「寸志」のみの支給としている企業も多いため、基本的には現状維持をするベクトル。今回のような最高裁が待たれていた。

 

最高裁判決を踏まえての対応

 最高裁判決は旧労働契約法20条についてのものですが、この規定はパート・有期労働法8条に引き継がれているため、今後も先例としての重要な意味を持ちます。

 以上みたとおり、最高裁の判断として、パート・有期従業員に賞与を払わなくてもよいという話になっていないのは当然です。

 さらに言えば、職務内容・責任・人材活用の仕組み等が全く同一の場合、今後はパート・有期労働法9条の均等待遇規定によって規律されることになるので、本最高裁判決を持ち出すまでもなく、賞与不払が違法と判断されることになると思われます。

 以下の点について、企業は考えていかないといけないと思います。

・企業としては、職務内容の整理は必要です。ここの作業内容や職務内容に差がないケース(工場勤務の従業員等でもあり得る)についても、責任・立場を明確にしなければなりません。

・最高裁でも触れられていた正社員登用制度等、正社員へのルートを開けたものにしておくことは結構重要かもしれません。

・通常の同一労働同一賃金対応の手順(労働者区分の分析・企業の組織の在り方の検討・賃金比較)を踏んでいく作業は必須。その中で賞与の位置づけを考えていく。

・大阪医科大学事件最高裁判決を踏まえて、賞与を出さない・寸志にとどめるという制度設計もあり得ます。ただし、やはりその際に「会社は賞与というものをこのように考えている」という位置づけを明確に打ち出し、これを従業員にも説明できることが必要です(パート・有期労働法14条により説明責任がある)。

・そうした意味で、賞与の支給基準・ルールがないのであれば作っておくことも重要。ただ、ルール化は支給の裁量を失わせるという意味では諸刃の剣。消極的な企業は多いかもしれません。

 なお、今回の最高裁判決からは、賞与が完全固定額であるとか、賞与が業績連動型・利益分配方式であるとか、その賞与の定め方如何で直ちに結論は導かれないと思います。

・以上のように労務管理について非常に大きな判決となっています。

 

【速報】大阪医科大(大阪医科薬科大)事件最高裁判決、メトロコマース事件最高裁判決【同一労働同一賃金】

2020-10-14

弁護士法人戸田労務経営の所長の戸田です。

10月13日、注目の最高裁判決が出ました。

大阪医科大(大阪医科薬科大)事件最高裁判決、メトロコマース事件最高裁判決の2件です。

いずれも、昨今話題になっている同一労働同一賃金を主たる争点として長きにわたって争われてきた事件です。

 

この2件が特に注目されていたのは、これまで最高裁では判断がされていなかった、「賞与」「退職金」について判断がされるためです。

同一労働同一賃金の枠組みの中で、パート・有期雇用労働者に「賞与」「退職金」支給しないことが違法になるか。

これは厚労省のガイドラインでもはっきりしない。

なんだか賞与については違法になる可能性が示唆されていますが、退職金に関しては全く記載を避けています。

なので、平場の企業にとってはどうしていいのかよくわからんというのが本音でした。

 

さて、私も速報レベルの情報しか得ていませんが、

大阪医科大事件(大阪医科薬科大)最高裁判決は、大阪高裁判決で正社員の賞与支給基準の60%を認めた判断を覆し、契約社員への賞与の不支給は不合理ではないとの判断です。

【(10月16日追記) 大阪医科大事件最高裁判決の解説を執筆しました。】

【(10月18日追記) 東京メトロコマース事件最高裁判決の解説を執筆しました

 

メトロコマース事件最高裁判決については、東京高裁で認めた退職金の一部支給の判断を覆し、ここも契約社員への退職金の不支給が不合理ではないとの判断です。

いずれも結論としては労働者側が敗訴した形です。

 

旧労働契約法20条についての問題ですが、有期・パート労働法の8条・9条に生まれ変わっています。

今後の同一労働同一賃金の枠組みを考える上で極めて重要な判断となります。

 

正直、地方の中小企業(地域NO1の中小企業も含みます)において、賞与・退職金をパート労働者・有期労働者にまできっちりと行き届かせている企業はかなり少数です。

工場を抱えている地方中小企業では、賞与や退職金について、パート従業員の方全てに支給するとなれば、極めて大きな負担となる。

来年2021年中小企業にも施行されますが、それに間に合わせるのは現実的に難しいという実情があるのが実感でした。

 

さて、今回の最高裁判決は、労働者側に少々厳しいものでして、

同一労働同一賃金を定めた旧労働契約法20条、現在の有期・パート労働法8条・9条が骨抜きになった、その存在意義が問われる不当判決だ、

そんな意見も出ています。

 

しかし、結論的に、今回の最高裁判決は、現状の企業内での労働者区分に沿った組織を踏まえ、労使の実態を探って判断を出したのではないかと思っています。

元々日本における労働条件の策定や決定は、労使間協議、特に労働組合を通じた労使交渉に委ねられてきた歴史があります。

長澤運輸事件最高裁判決においても言及されているとおり、労働条件は労使交渉による策定が基本なのです。

 

現在は組合組織率も低下しており、労使交渉が機能していない状況にあることは重々承知の上ですが、

労働基準法や労働契約法でも直接の規制にかからず、各企業の工夫や裁量にゆだねられている賞与や退職金についてまで、法をもって規制してよいのだろうか。

そもそも日本には本来的な同一労働同一賃金はない。

日本型同一労働同一賃金というのは正規労働者と非正規労働者の格差是正措置とみるべきものですが、法をもって格差を是正するということは、労働条件策定についての規制を広く認めるベクトルに働きます。

同一労働同一賃金を否定するわけではないですが、この「法律」による是正をあまりに広げすぎる方向性には疑問を覚えます。

 

というのは私の完全なる私見ではありますが、今回の最高裁の判断の背景にはそんな問題意識があるように思います。

今回の大阪医科大事件(大阪医科薬科大)最高裁判決、メトロコマース事件最高裁判決は、賞与と退職金に関する同一労働同一賃金について、一定の線引きをしたと言えるかと思います。

 

改めて、この事件詳細は、判決文等を読み込んで後日解説しようと思います。

【(追記)詳細解説】

大阪医科大(大阪医科薬科大)事件最高裁判決の詳細解説はこちら

東京メトロコマース事件最高裁判決の詳細解説はこちら

長澤運輸事件最高裁判決・ハマキョウレックス事件最高裁判決を踏まえて企業(使用者)が行うべき労務対応ポイント

2018-06-03

弁護士法人戸田労務経営(船橋市、市川市、浦安市、習志野市等)の労働弁護士の戸田です。

平成30年6月1日に、ハマキョウレックス事件・長澤運輸事件の両最高裁判決が出されました。

労働契約法20条の解釈に関する初の最高裁判決です。

これまで労働契約法20条の判断手法・解釈については下級審では判断が分かれていました。

ハマキョウレックス事件と長澤運輸事件の各高裁判決についても、それぞれ判断手法についても割れている印象もありました。

そこで、今回のハマキョウレックス事件・長澤運輸事件の両最高裁判決は、正に私たち弁護士も含め、世間の企業・労働者の方々も大注目の判断だったわけです。

今回、各社新聞報道などを踏まえ、ハマキョウレックス事件・長澤運輸事件最高裁判決を受けて企業(使用者)が今すぐ対応すべきポイントについて解説します。

 

1 長澤運輸事件最高裁判決の判決内容の説明

まず、長澤運輸事件最高裁判決です。

長澤運輸事件は、定年後に嘱託社員として再雇用されたドライバーにつき、定年後の賃金が20%以上の幅で減額される結果になったことが、正社員と待遇の格差につき、労働契約法20条の不合理な格差にあたるとして、損害賠償を求めた事案です。

長澤運輸事件では、最高裁判決でも確認されているとおり、職務内容や配置・責任の範囲は正社員と同じです。

長澤運輸事件の高裁判決では、労働契約法20条の「その他の事情」として、定年後継続雇用制度が社会一般に広く行われ、さらに定年後継続雇用後は、正社員と比較して賃金が引き下げられることもまた社会一般で広く行われていること等が重視されました。

最高裁判決は、まず労働契約法20条が「均衡」待遇を定めたものであることを確認し(格差を許容しない「均等」待遇とは違う)、具体的な判断に入ります。

重視されたのは定年制度と、定年後再雇用制度の目的です。

日本の長期間雇用制度は、定年までの長期間雇用を前提としている

・これに対し、定年後再雇用後において長期間雇用は想定されていない

定年後再雇用後は、一定の要件を満たせば老齢厚生年金の受給が予定されている

こうした事情は、定年後再雇用の賃金体系のあり方の検討する際の基礎となるもので、労働契約法20条の「その他の事情」として考慮されると判断されました。

 

そして、重要な点は、非正規社員と正社員との個々の賃金項目にかかる労働条件の相違が不合理かどうかを判断するには、両者の賃金の総額を比較するだけではなく、賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき、と判断した点です。

ここは、長澤運輸事件の高裁では明確にされていなかった点です。

結果、精勤手当と超勤手当(時間外手当)については、不合理な格差と判断されましたが、その他の項目、特に能率給(歩合給)、職務給、賞与などの項目についての格差は、不合理とは言えないと判断されました

 

2 ハマキョウレックス事件最高裁判決の判決内容の説明

ハマキョウレックス事件は、長澤運輸事件と同じく、職務内容や責任等も同じドライバーの方の賃金格差が問題となっています。ただ、長澤運輸事件とは違い、定年後再雇用の事情は問題となっていません。

ハマキョウレックス事件では、上記長澤運輸事件最高裁判決と同様、賃金の各手当ごとにその趣旨や目的を見た個別判断を行なっていました。ハマキョウレックス事件の最高裁判決も、その手法は変わりません。

賃金に関しては手当ごとの趣旨判断という手法は完全に確立したわけですね。

ハマキョウレックス事件最高裁判決は、住宅手当を除き、皆勤手当を含めた各手当の格差の合理性は認めませんでした

 

3 長澤運輸事件最高裁判決・ハマキョウレックス事件最高裁判決が企業(使用者)側の労務管理に与える影響

さて、長澤運輸事件最高裁判決・ハマキョウレックス事件最高裁判決が企業(使用者)に与える影響はどうでしょう。

まず、正社員と非正規労働者の賃金格差について、「賃金項目の趣旨」から個別に判断する、という手法が確立されたことは極めて重要です

これまでは、長澤運輸事件の高裁判決のように、賃金項目を個別に見るのではなく、賃金待遇全体を比較する、という判断手法も十分にありえたからです。

(むしろ使用者側弁護士からは、「労働条件」の格差の問題である以上、手当レベルではなく、賃金総額で見るべきだろ!という論調も強かった)。

 

実務的に見ると、長澤運輸事件最高裁判決・ハマキョウレックス事件最高裁判決からは、企業(使用者)において、正社員と非正規労働者(有期雇用労働者)との間で、統一的な賃金体系の設計を行うことを求められると言ってよいでしょう。

そもそも、「非正規労働者だから賃金は安いのは当然」という理屈は、労働契約法20条の立法時点から成り立たないのですが、多くの中小企業では今もこの感覚は変わっていません。

長澤運輸事件やハマキョウレックス事件などの運送業はもとより、その他、小売・飲食業などでも、職務内容も責任も全く同じなのに、「非正規労働者だから」ということで賃金待遇が違う会社はむしろ多数に及んでいる印象ですが、これは危険。

 

さらに立ち返ると、正社員の賃金制度も見直す必要があります

私は、正社員に対しても手当を「何となく・・・」で払っている会社をゴマンと見てきました。たくさんの手当を作っているのに、会社がその手当の趣旨や目的がわかっていない。

少なくとも、こうした賃金制度への無関心が許されないことが、長澤運輸事件・ハマキョウレックス事件の両最高裁判決で明らかにされたのはではないでしょうか。

 

5 企業(使用者)が今すぐやるべきポイント

このように、長澤運輸事件最高裁判決・ハマキョウレックス事件最高裁判決は、労務管理実務に非常に大きな影響をもたらします。では企業(使用者)は何をすればよいのか?

重要な視点としては、賃金の格差の理由をしっかりと説明できるかどうかです。

その説明は、就業規則や賃金規程での手当位置付けに基づく必要もありますし、さらには実際の支給実態からも矛盾なく説明できる必要があります。

この説明ができないのであれば、賃金体系・賃金規則を見直して修正する等の対応が必要です。

まずは、次のポイントをチェックしてみてください。

 

☑正社員・期間雇用社員への支給賃金の項目を総ざらい

まずは賃金手当の支給実態の把握ですね。

賃金台帳を引っ張り出して、正社員・期間雇用社員の支給賃金をリストアップしましょう。

誰に、何を、どんな時に支給しているか把握していますか?

 

☑就業規則・賃金規程における各支給賃金の規定上の意味づけの確認(「賃金項目の趣旨」確認)

会社の賃金制度の見直しです。まずは、自社で支給している手当、どういう趣旨であるかを理解していますでしょうか。

就業規則・賃金規程の記載を確認しましょう(基本的には就業規則等の意味づけが重視されます)。

ひな型就業規則のままに色々な手当を作っている場合は危険ですよ。

 

☑就業規則・賃金規程に沿った支給がなされているかどうか(「賃金項目の趣旨」と実態に齟齬はないか)

・上記の規則上の手当の趣旨やルールと、実際の支給の実態は合致しているか?

・この点を踏まえ、賃金体系を今一度整備する必要があります。

 

☑非正規との支給項目に差がある場合、その支給の差を正当化できる理由があるか。

①正社員と非正規労働者の職務の内容の違いに基づくか

②正社員と非正規労働者の責任等の違いに基づくか

③「その他の事情」(長澤運輸事件でいえば定年制)で違いを説明できるか?

以上について、社内整備をすることが必要です。

 

☑支給の区別の合理的な理由を説明できない手当については、早急に非正規労働者に対して当該費目についての支給を検討する

・範囲が広くなる場合は説明会開催も必要になる可能性があります。

・放置しておくと、非正規労働者からの損害賠償請求がされるリスクもあります。

・正社員との賃金格差の是正は、企業(使用者)の義務だと考えて、速やかな対応が必要です。

 

6 最後に

以上、まだ判例解説も出そろっていない段階ですが、長澤運輸事件最高裁判決・ハマキョウレックス事件最高裁判決はいずれも非常に重要な判決です。

判例に沿った対応については、専門家を交えて行うことをお勧めします。

 

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