弁護士法人戸田労務経営です。
代表弁護士の戸田が物流・輸送業界の専門誌である輸送経済新聞社で運送業での労務問題についてのコラムの連載についての紹介です。
運輸・物流業界の労務・法律問題に精通した企業側労務専門の弁護士として紹介されております。
輸送経済新聞9月14日号掲載の第4回は運送会社での同一労働同一賃金の考え方について取り上げました。
記事内容をご紹介します。
物流の労使・法律トラブル 第4回 「同一労働同一賃金とは何か④=大阪医科薬科大学事件」
今回は、運送会社からも多く相談を受ける賞与支給について取り上げる。
同一労働同一賃金に関して最も多く受ける相談の一つが「ボーナスを契約社員やパート職員に払わないといけないか」という相談だ。
これは多くの中小企業で、「ボーナスは正社員のみ」という制度が当然のように考えられていたことに起因する。いわば、ボーナスは長く務める正社員へのご褒美(報償)との考えは、古くから日本企業に根付いていた。契約社員やパートに支払われないことを疑うこともない時代が長く続いていた。運送・運輸業界でも、契約社員のドライバーや内勤パートにボーナスを支給しない会社は多いだろう。
正直、われわれ法律実務家も同一労働同一賃金が導入されたとして、賞与などに影響することはないだろうと思っていた。
貢献に応じて払う可能性も
ところが、この考え方に一石を投じたのが2018年12月に厚生労働省が出した同一労働同一賃金ガイドライン(厚労省告示430号)だった。
ガイドラインで、正社員と貢献が同じであれば、「貢献に応じた部分」については非正規労働者にも「正社員と同一の賞与」を払うべきとの考え方が出された。つまり、多くの企業での賞与の扱いが違法となる可能性があるということだ。
仮にパート・有期労働者に賞与支給を一律に適用すると、各企業の固定費の増加は莫大になる。それどころか賞与や退職金制度の位置づけと企業内の従業員のあり方にも影響を与えかねない。
この点に一つの結論を与えたのが、昨年2020年10月13日の最高裁判決だ。これは正社員とほぼ同じ業務を行う、大学のアルバイト事務職員に賞与が支給されていないことが違法だと争われた事件だ。
高裁では、アルバイト職員の賞与請求の一部(なんと60%)が認められていた。だが、最高裁判決は一転、アルバイト職員の賞与請求を認めなかった。
最高裁では、賞与・ボーナスというものが何たるかを丁寧に考えていた。「功労報償や将来に賃金意欲向上」「正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的」といった、人材確保の観点にも触れている。短期間しか勤務しないアルバイトへの支給にはなじみ難いという考えで、これは先に触れた日本企業に何となく根付いていた価値観を追認したようにも思える。
最高裁判決を踏まえれば、今まで通り、「賞与を出さない」「寸志にとどめる」という制度設計もあり得るだろう。多くの企業はこの結論に安堵した。ただ、注意が必要だ。この最高裁判決は、パート・有期従業員であれば一律に賞与を払わなくても良いと言ったわけではない。
賞与の役割は何かを明確に
まず、会社での賞与制度がどのようなものか。本当に「正社員の確保」につながるものになっているか検討する必要がある。同一労働同一賃金の判断ポイント―①職務内容の違い、②人材配置の違い、③その他の事情も重要だ(=表)。
運送会社のように、非正規・正規の従業員で作業内容や職務内容に差がないドライバー・内勤職員などでは判断ポイントが全く同じになりがち。賞与支給に差をつけるなら、責任や役割などの違いを考えないといけない。
また、表③の正社員登用制度も重要だ。正社員へのルートが常に開かれていることで、パート・契約社員も努力次第で賞与がもらえる可能性があるという人事体系が見いだせる。
結局、会社において賞与の位置づけを明確にし、正社員だけのものだという理由を従業員にも説明できなければならないということだ。「賞与は正社員だけの特権」という固定観念は一旦捨てて、賞与制度を見つめ直すことをお勧めしたい。
正職員 | アルバイト職員 | |
①業務内容 | 定型的で簡便な作業ではない業務が大半。中には法人全体に影響を及ぼすような重要な施策も含まれ。業務に伴う責任は大きい | 業務の内容は、定型的で簡便な作業が中心 |
②配置の変更(人材活用の仕組み) | 出向や配置換えなどを命じられることがある。人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われていた | 原則として、業務命令によって他の部署に配置転換されることはなく、人事異動は例外的 |
③その他の事情=正社員登用制度 | アルバイト職員から正職員に登用されるルートとして正社員登用制度がある。毎年相当数の受験者がおり、一定数が合格している |