弁護士法人戸田労務経営です。
代表弁護士の戸田が物流・輸送業界の専門誌である輸送経済新聞社で運送業での労務問題についてのコラムの連載についての紹介です。
運輸・物流業界の労務・法律問題に精通した企業側労務専門の弁護士として紹介されております。
輸送経済新聞7月12日号掲載の第13回は解雇の種類について取り上げました。
記事内容をご紹介します。
従業員の退職⑤解雇の種類
これまでは、従業員との綺麗な別れである「合意退職」を目指す方法をテーマにしてきた。
しかし、実際には問題を起こす従業員との別れが円滑に行くことは少ない。どれだけ丁寧に説得をしても聞き入れてくれない従業員はいるものだ。
事故ばかり起こして反省もしない、配車指示に文句ばかりを言って配車係とトラブルばかり、呼気検査も真面目にやらない等、会社側の不満も限界だ。今すぐに別れなければ、他の従業員への悪影響の方が大きくなる。
問題なのは、会社から一方的な別れを告げることは「解雇」であること。第10回でお話したが、日本での解雇は非常に難しい。裁判所に持ち込まれたらほぼ負ける。
最近は、「解雇」紛争となれば労働者側に弁護士がすぐに就く。語弊を恐れずにいうと、労働者側にとって解雇紛争は勝ち筋だからだ。
そうは言っても、こうしたリスクを恐れて問題社員とずっとお付き合いしていくことが正解だとは思わない。結局は会社と従業員の相性・マッチングの問題だ。終身雇用制度も崩れている現代にあっては、「出会い」があって「別れ」もあって当然だと思う。相性のない一人の人間によって組織崩壊につながる事案もある。組織であっても人間同士。お互いにとってより良い道を探るべきなのだ。
解雇の種類としてよく分類されるのは、普通解雇・整理解雇・懲戒解雇の三つだ(図)。
普通解雇というのは、労働者の契約違反による解雇だ。労働者の義務といえば「働く義務」。十分に働く義務を果たしていない場合はこの普通解雇の出番となる。
たとえば、傷病によって仕事が出来なくなる(義務遂行の不能)、期待していた能力に不足したパフォーマンス(義務遂行が不完全)等は典型だろう。その他、勤務態度が悪く、周囲との協調性を欠く場合も、誠実に働く義務を果たしていないということで解雇理由となる。
整理解雇は、会社の経営状態が悪いことを理由にリストラ策として使われる解雇だ。普通解雇と逆で、会社側の契約違反による解雇と言われる。つまり、会社が果たすべき義務である賃金の支払が困難であることを理由にクビを切るという処分なのだ。あたかも整理解雇は「会社にとってどうしようもないから許されやすい」という誤解を持たれることがあるが、全く逆だ。会社の債務不履行によって、何の非もない労働者との契約を解除するというものなので、非常にハードルが高い。たとえば、コロナで売上が下がったから整理解雇できる等と単純に考えていると痛い目を見る。長期間のリストラスケジュールを組んで行ってもようやく認められるかどうかという厳しいものだ。
最後に、懲戒解雇だ。これは、普通解雇や整理解雇とは全く性質が違う。
会社の秩序違反が著しい場合に発動する懲罰だ。働く義務を果たしているかどうかは関係ない。仕事には全く問題がなかったとしても、企業で定めたルールを激しく破った場合には「退場」処分となる。サッカーで例えればレッドカード。社内で重大なセクハラをしたとか、会社の金品を窃盗・横領した等の重大な規律違反等が典型だろう。
問題となる社員への別れは、この解雇のいずれかを選択して行う。最終局面では紛争覚悟でこの宝刀を抜く必要がある。ただ、裏技はない。社員の問題となる「行動」が何かを見極めて、適切にその問題行動に向き合っていかなければ解雇は実現できないのだ。
そうした姿勢があれば、裁判所も会社の思い・苦悩を理解してくれることも多い。「円満な別れ」は和解で実現できる。
次回からは、普通解雇=労働者の契約違反について踏み込んでいく。
【解雇の種類】
普通解雇 | 労働者の労働義務の不履行による解雇 | 労働契約法16条で解雇権濫用法理が適用 |
整理解雇 | 使用者側の賃金支払義務の不履行に起因する経営悪化等を理由とする解雇 | 同上。解雇の要件は非常に厳しい。 |
懲戒解雇 | 会社の企業秩序を著しく乱す場合に発動される罰則による特別な解雇処分 | 労働契約法15条で懲戒権の濫用法理が適用。普通解雇よりも厳しく判断。 |