サカイ引越センター事件高裁判決(東京高裁R6・5・15)~運送業の歩合給制度はどうなるか

弁護士(社労士)の戸田です。

さて、今回は、運送業を中心に導入が進んでいる歩合給制度の有効性が問われた
サカイ引越センター事件(東京高裁令和6年5月15日判決・労働判例2024年12月5日号1318号掲載) を取り上げます。

これは、運送会社で多く導入されている売上連動の歩合給制度(労基法の出来高払制度)が否定された事件です。

ちょっと長い解説になりますが、お付き合いください。

(1) 運送会社で導入が進む歩合給制度

まず、この歩合給制度、運送業のドライバーの未払残業代請求が頻発している最近、多くの運送会社で導入が進められています。
完全歩合給制度の導入に踏み切った運送会社も多いですね。

というのも、労基法の出来高払制度を導入すると、時間外割増賃金の計算方法が次のとおり、固定給と比べるとかなり特殊です。

  • 所定労働時間ではなく、総労働時間から割り出した基礎時給を基準(総労働時間で割るので、かなり少額)
  • 法定時間外の割増計算は「1.25」ではなく「0.25」で計算(1.0は歩合給で全て考慮済み)

つまり、歩合給制度は通常の固定給に比べるとかなり残業代が抑えられることになるのです。

(2) サカイ引越センター事件地裁判決(第1審)の衝撃 ~ドライバーの自助努力~

そんな中で、昨年に出たサカイ引越センター高裁事件の第1審(東京地裁立川支部令和5年8月9日判決)はなかなか衝撃でした。

この第1審判決で強調されたのが、 現業職の売上連動の手当が「現業職の自助努力が反映される賃金」ではないという点です。
簡単に言うと、

  • 引っ越し会社の現業作業員は、自分が頑張ったからといって売上が上がるわけではない
  • 結局は配車係の裁量による配車のやり方で決まってしまう

ということですね。 しかし、これを言い出すと、およそほぼ全ての運送会社に当てはまってしまいます。

  • そもそも運送会社では歩合給制度が否定されるのか!?

 と、かなり業界がざわつきました。そのため高裁判決がこの点をどこまで重視するかは注目でした。

(3) 高裁判決の意義~労働の成果に連動している歩合給かが大事~

高裁判決は、あらためて歩合給についての判断基準を立て、本件の業績給等が労基法の出来高給に該当しないと判断しています。

  • 労基法の出来高払い制度=労働者の賃金が労働給付の成果に一定比率を乗じてその額が定まる賃金制度
  • 出来高払い賃金=上記の仕組みの下で労働者に支払われるべき賃金
  • 引越運送業務の現業職であれば、作業量や運搬距離労働給付の成果となる。

という前提を打ち出して、
歩合給の金額が「作業量や運搬距離」という労働成果に連動して比例しているか という観点が重視されています。

結論は第1審と同じでしたが、自助努力云々という観点は控え目になりました。 歩合給の定義や考え方からストレートな当てはめをしたという印象です。

気になりますのは、この会社では、業績給A(売上給)という、よくある売上額(車両・人件費値引後)に比例した歩合給手当。
高裁判決では、売上額が作業量や運搬距離に連動していないという理由で、歩合給の有効性が否定されました。

ただ、運送会社では、こうした売上額連動の歩合給はよく見ます。
これを運送会社のドライバーで見るとどうなるのでしょう。

私見ですが、運送会社のドライバーについては、対象の荷物・貨物等そのものを運搬するのが仕事という側面が強いですよね。 (引っ越し作業の現業職は、荷物を運び出して引っ越しを完了させることが仕事)

なので、運送会社のドライバーの労働成果は、運搬業務の成果としての「運搬距離」が重視されるのではないでしょうか。

となれば、運送会社では運賃額は距離連動となっている体系が多いので、 売上額と運搬距離の連動性は認められるケースは比較的多いのではないかと思います。

その意味で、運送会社全般にこの判決の結論が妥当するものではないでしょう。

気を付けないといけないのは、この高裁判決は、
法の予定する出来高払制というためには、緩やかな相関関係では不十分」と指摘している点です。

歩合給制度を導入している会社では、「労働給付の成果」と連動させる仕組みになっているか、今一度検討が必要かもしれませんね。

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