現在、労働基準法について大規模な見直しが検討されています。労働基準法の根幹に関わる体系的な改正が議論されるのは、約40年ぶりになります。
もっとも、報道等でも触れられているとおり、2026年通常国会への法案提出は見送りとなっており、現時点で改正内容や施行時期が確定しているわけではありません。
とはいえ、厚生労働省の研究会報告書等により、将来の改正に向けた論点は相当程度整理されており、企業として無関係ではいられない状況にあります。
そこで本稿では、現時点で押さえておくべき改正の方向性と、企業が注意すべき実務ポイントについて解説します。
※本記事は2026年1月28日時点の情報を基に執筆しております。
今回の労働基準法見直しは、働き方の変化に合わせて制度全体を再整理しようとするものです。長時間労働是正、健康確保、テレワークや副業・兼業の広がりといった社会状況を背景に、現行制度が必ずしも実態に合わなくなっている部分が問題視されています。
厚生労働省によると(「労働基準関係法制研究会報告書」)、労働時間、休日・休息、割増賃金といった労務管理の中核的テーマについて、見直しが必要な論点が整理されています。
そこで以下、企業実務への影響が特に大きいと考えられる検討ポイントを取り上げ、順に解説します。
労働基準法の見直し議論では、多くの項目が取り上げられていますが、本稿ではとりわけ企業実務への影響が大きく、経営者として押さえておくべき点を紹介します。
これらについては、労基法改正にならなくても、いずれも安全配慮義務の観点や、働き方の多様化の観点からも、近いうちに対応が必要となってくるでしょう。
なお、いずれも現時点では確定した改正内容ではなく、検討段階の論点であることにご留意ください。
現行制度では、4週4日の休日確保が守られていれば、勤務の組み方によっては長期間連続勤務が可能という運用になっていますが、改正後は14日以上の連続勤務を禁止する方向で検討されています。
これは、長時間・連続勤務が健康リスクや労災リスクと関連しているとの研究もあるためです。
仮にこの方向が法制化されれば、繁忙期のシフト設計や休日付与の方針そのものを見直す必要が出てきます。
労働基準法には週1回以上の休み(法定休日)を与える義務がありますが、実務ではシフトローテーションの形で休日を運用するだけで、どの日が法定休日かを明確にしていないケースも見られます。
改正後は、会社が就業規則などで「どの日を法定休日とするかを事前に特定すること」を求められることとなる可能性があります。
これがルール化されると、就業規則の書き方や勤務表の管理方法を整備する必要がより強くなります。
勤務間インターバルとは、ある日の退勤時刻から次の日の始業時刻までに設ける休息時間のことで、現行では努力義務にとどまっています。検討では、これを、退勤後原則11時間の休息を確保する「義務」とする方向が示されています。
帰宅が遅くなった翌日も早朝出勤が難しくなるなど、シフト設計や時間外労働のコントロール方法が変わる可能性があります。
現在、有給休暇取得時の賃金については複数の算定方式から選択できますが、検討では原則として「通常賃金方式」を基本とする方向が示されています。これは、年次有給休暇を取得した日も、通常働いた日と同等の賃金を支払う考え方です。
給与計算規程や給与システムの設定を見直す必要が出るかもしれません。
勤務時間外・休日に連絡をすることについてのルール化を求めるものです。
これが業務の指揮命令になると、「隠れた残業」の温床となりますので、労働者の時間外労働になるだけでなく、労働時間にならずとも、待機が常態化するような環境で、労働者の心身の負担を与えるという点が問題となっています。
この整備によって、「会社は、従業員に勤務時間外・休日に返信を求めてはならず、従業員は業務連絡については時間外に応じる必要はない」等の社内のルール化が必要になってくる可能性があります。
現行制度では、複数の会社で働く労働者について、労働時間を合算して割増賃金を計算するルールが原則とされていますが、実務負担が重いという指摘があります。そのため、労働時間通算は健康確保のために維持しつつ、割増賃金の算定については通算を要しない方向での整理が検討されています。
副業を認める企業にとっては、これまで以上に労働時間管理・健康管理の体制を整えることが求められる可能性があります。
フリーランスと言いながらも、実質的には仕事を拒否する事由もなくて実態は「労働者」となっているケースがありました。ここについては元々確立した基準があるのですが、法律上明確な判断基準がありません。この点についての明確化がされてくると、「労働者性」を誤った対応をしていること自体について、労基署から厳しく指導されるケースが出てきます。
2024年施行のフリーランス法との関連もあり、業務委託契約の内容と実際の業務の依頼の仕方等を見直す必要ができてきます。
最後に、三六協定等の労使協定の締結、就業規則等の意見聴取をすべき過半数代表の選出についてです。
現在も、過半数代表は、民主的な手続で労働者の「過半数」によってえらばれる必要があるのですが、この適正プロセスを経ないと、労使協定等が無効になるという方向で議論されています。
「親睦会代表が自動的に就任」とか、「会社が一本釣り」という選任をすることはリスクが高まります(たとえば、三六協定が無効となると大変な影響があります)。
今まで以上に、適切な選任をしたという記録を残しておくことが重要です。たとえば、投票の呼びかけ案内や選出した際の従業員へのお知らせ等を残すことです。
2026年通常国会への法案提出は見送られており、現時点で改正内容や施行時期が確定しているわけではありません。 もっとも、議論が白紙になったというよりは、内容の精査や社会的調整に時間を要している段階と捉えるのが自然でしょう。実際、厚生労働省の検討会で公表された報告書等により、改正に向けた論点や方向性はすでに整理されつつあります。
したがって、企業として今の段階で重要なのは、確定していない改正内容を前提に制度を作り替えることではなく、自社の労務管理の現状を把握し、前記の論点と照らして「弱いところ」がないかを点検しておくことです。
具体的には
以上の基本事項を、勤怠システム・規程等や運用実態の両面から確認することが考えられます。
これらの見直しは、将来の法改正への備えという意味だけでなく、現在の労務トラブル予防や従業員の健康確保という観点から極めて有益です。このあたりが不十分なために労使トラブルに発展しているケースも沢山ございますので、是非見直しをしてみてください。
以上のとおり、労働基準法の見直しは現時点では検討段階にありますが、その方向性はすでに明らかになりつつあります。企業に求められているのは、確定していない改正内容に振り回されることではなく、将来を見据えて自社の労務管理を点検・整備しておくことです。
改正動向を踏まえて「この運用で大丈夫だろうか」「将来問題にならないか」と不安を感じた場合には、早めに弁護士などの専門家に相談することで、無用なリスクを回避することにつながります。