休職の実務運用で間違いがちなポイント~傷病休業と復職(治癒)

代表の戸田です。

今回は私が企業の皆様とお話していて感じた、休職の実務運用で間違いがちなポイントをお伝えします。

私傷病休職といえば、従業員の業務外の傷病による長期欠勤が一定期間続く場合に活用されます。 多くの会社で、ある程度の休職期間を設定して運用しているのではないでしょうか。

ポイントその1 勘違いされがちな私傷病休職制度

この私傷病休職制度をあたかも「労働者の権利」かのように扱ってしまってはいないでしょうか。 たとえば次のような運用です。

  • 従業員に休職届を提出させて、希望する休職期間のとおりに休職をさせている。
  • 診断書で「●●ヶ月の自宅療養が望ましい」と記載されていれば、休職期間をいつまでも延長している。
  • 従業員が「病気の従業員が休むのは権利でしょう」という要望にそのまま応じている。

こうした運用は、従業員に寄り添っている側面もありますが、実は休職制度(私傷病休職)の本質とは相容れません。

私傷病休職というのは、休職期間中に回復せず期間満了となれば自然退職(または解雇)となるシビアな制度なのです。 つまりは、退職までのモラトリアム=解雇猶予のための制度と言わます。

というのも、労働者の契約上の最大の義務は「働く義務」です。

傷病休職中というのは、その義務を果たすことが不能な状態になっている、つまり民法でいえば「履行不能」「不完全履行」という債務不履行になり得ます。

ただ、人の心身の状態は流動的で、単に病気になったら即解雇とはできません。 そこで、私傷病期間を定めることによって、この線引きをしているという建付なのです。

私傷病休職は、会社が猶予のために命じるものであって、決して労働者の権利ではありません。 休職命令書などで休職期限を区切って明確に発令することが重要です。

ポイントその2 復職判断の際にはどんな仕事を検討していますか?

よくある誤解は、復帰に向けて会社の方であらゆる業務を検討したり、場合によっては復帰向けの仕事を用意しないといけないという話です。

この誤解を招く一因として、有名な片山組事件(最高裁平成10.4.9)という最高裁判決があります。

片山組事件判決は、軽減業務を検討すべき場合についてこう言っています。

「その能力、経験、地位、当該企業の事業規模、業種、当該企業における労働者の配置・移動の実情及び難易度等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているのならば」

上記片山組事件・最高裁判H10・4・9より引用

つまり、本人が軽易業務を希望していることが前提です。

「今までの仕事がしたい」との希望がある場合や、労働条件として職務が限定されている人についてまで軽易業務を検討する必要はありません。

また、軽減業務の希望があったとしても、会社の方で新たな軽易業務を作り出す義務はありません。

基本的には「従前の職務を通常の程度に行える健康状態に復した時」が「治癒」です。 これが原則です。これが本来決められた労働義務を果たせる状態だからです。

ポイントその3 復職判断には経過が重要

最終的に、治癒しなかったとして退職が有効と認められる裁判例では、

1.復職期間満了前に、産業医を入れた職場復帰面談を行う
2.当該労働者に試験出社を実施し、産業医などの専門家の意見をもとに判断する
3.産業医や専門医を入れた審査委員会などを開き、検討を重ねる

上記の観点が踏まえられています。

主治医だけでなく指定医(産業医)の意見聴取ならびに「試し出社」の活用も必須です。

「会社として、復帰にて向けてやるべきことをやった」ということが重要なので、

労働者の復職可能性を吟味した経過を分かるようにしておくことがポイントですね。

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