相談内容
当社の従業員が、工場で作業中に怪我をしました。
労災保険での対応をしたのですが、その後に損害賠償を請求されました。
労災保険で賠償がされたはずなのに、会社が責任を負わなくてはならないのでしょうか。
POINT
労災保険で速やかに対応することも大切ですが、安全配慮義務を尽くしていない場合は、会社が民事の賠償責任を追及される可能性があります。
賠償責任の額も大きくなることが多く、会社の社会的イメージにも大きな影響があるので、労働災害(労災)の問題については、労働専門弁護士への早めの相談が重要です。
相談が特に多い業種(産業別)
☑建設業 ☑製造業 ☑情報通信業 ☑運輸・郵便業(トラック運送業)
☑卸売・小売業 ☑金融業・保険業 ☑不動産・物品賃貸業
☑宿泊・飲食業(ホテル・飲食店等) ☑教育・学習支援(塾・予備校等)
☑医療・介護福祉業 ☑サービス業
※労災については、労災事故の場面はもちろんですが、長時間労働による労災の問題もあります。様々な業種で多くの相談があります。
1 労災保険によるカバー~加入は絶対・労災隠しは犯罪!
⑴ 労災保険の内容
労働者が、業務によって労働災害(労災)に被災した場合、災害補償保険(労災保険)は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷・疾病・障害・死亡等の多くの損害がカバーされています。
①療養補償給付 | 診察・薬剤・治療材料の支給、処置・手術、居宅介護、入院・看護等の治療に関わる給付がされます。 |
②休業補償給付 | 1日につき給付基礎日額(平均賃金相当額)の60%の支給がされます。最初の3日間は待機期間となり、支給対象ではありません。 |
③障害補償給付 | 治療が終了した時点で身体に障害が残った場合に支給されます。支給額は障害の程度によって異なります。 |
④遺族補償給付 | 労災によって労働者が死亡した場合に、その収入によって生計を維持していた配偶者、子等に対して支給される給付です。 |
⑤葬祭料給付 | 文字通り、労災によって労働者が死亡した場合の葬儀費用として支給されます。 |
⑥傷病補償年金 | 療養開始後1年6ヶ月経過しても直らず、その時点で障害等級が1~3級の全部労働不能の程度に至っている場合に支給される給付です。 |
⑦介護補償給付 | 労災によって残った後遺障害によって、随時介護が必要な場合、その介護費用が支給されるというものです。支給には一定の要件があります。 |
⑵ 会社側も速やかな労災対応を
「うちの会社は労災保険に入っていない」というのは許されません。
基本的には労災保険の加入は事業主の義務ですから(労働者がいない個人事業は除く)、速やかに加入しないと大変なことになります。
そして、労働災害(労災)が発生した場合は、会社側も積極的に労災手続に協力するべきで、「労災隠し」等を行うことは厳禁です。
速やかな労災手続を行って、怪我などをした労働者が治療などに専念できるようにすることが重要です。
2 労働災害(労災)が起きた場合の会社のリスク
労働災害(労災)が起きた場合の会社のリスクはどのようなものでしょうか。
もちろん、大切な従業員が怪我をしたり、場合によっては命を落としてしまう、そのこと自体がとても大きな損失であることは言うまでもありません。
ただ、現実的には、多大な賠償責任を負ったり、企業のイメージが大きく低下してしまうことで、会社の存続の危機になることも少なくありません。
⑴ 多額の民事損害賠償請求を受けるリスク
まず、労働災害が起きた場合、労働者から多額の損害賠償請求を受ける点についてです。
「労災保険で損害分の支払がされたのになぜ?」というご質問を受けることがとても多いのですが、これは労災保険の内容に限界があることが理由です。
というのも、労災給付では、①慰謝料(入通院慰謝料・後遺障害慰謝料)が支給されない、②休業補償も60%しか支給されない、③後遺障害が残っても、将来にわたる収入の填補(逸失利益)の支給はないこと等、本来の損害全てをカバーできないのです。
使用者は、労働者の身体・生命や健康について十分配慮すべき安全配慮義務を負っています(労働契約法第5条)。
建設業、製造業の会社等、業務そのものに危険が伴うような業種はもちろん、運送業を初めとするその他の業種でも、長時間労働等を防止して労働者に身体的・精神的な負担がかからないように配慮しなければなりません。
重度の後遺障害が残るケース、労働者が死亡した事案などでは、その賠償額は数千万以上、場合によっては億単位を超えることもあります。
事業規模によっては、賠償責任だけで会社存続が危ぶまれるほどになることも少なくはありません。
⑵ 企業イメージのリスク
近年、企業の安全管理についての世間の目は非常に厳しいです。
長時間労働によって労働者が過労死・自殺するような事件ともなれば、当該企業が社会的に大きなバッシングを受けることもあります。
それは大手企業に限ったことではありません。
労働安全に欠けた企業、というイメージは根強く残ってしまいます。
それは、顧客や従業員だけではなく、これから入社を予定する学生などに大きな負のイメージとして定着する可能性があります。
企業にとっては失うものが非常に大きい。
3 安全衛生管理を十分に行って安全配慮義務を尽くすことが重要
労災事故は起きてしまってからでは取り返しがつきません。
最近は、民事賠償責任をもカバーする保険商品が出てきているようですが、だからといって労働災害(労災)を起こすような体制では、企業の発展はあり得ないでしょう。
一度労働災害(労災)が発生してしまうと、労働者と企業の双方にとって取り返しのつかない事態になることは先にお話ししたとおりです。
重要なことは安全配慮義務を尽くし、労働災害(労災)事故の防止のための徹底を図ることです。
どのような対処をすべきかは、業種やその具体的な作業内容等によって千差万別ですが、都度体制を見直していくことは重要です。
そして、どういったことを実施していくことが安全配慮義務を尽くすことにつながるのかは、専門家のアドバイスを参考にすべきでしょう。
4 労災事故が起こった場合(労災事故が起きやすい業種の会社)は、弁護士への相談をおすすめします。
⑴ 事前予防のための弁護士利用
このように、労働災害(労災)事故は未然に防ぐために体制作りが非常に重要です。
そうした体制を万全にすることで、仮に万が一、労働災害(労災)事故が起こっても、会社に安全配慮義務違反がなければ、会社が責任を負うことはないのです。
リスクを避け、適正な労働安全管理を行うためには、労働実務を踏まえた判断・手続が不可欠ですので、法的な労務管理の専門家の労働弁護士に相談するのが一番です。
もし、安全衛生を検討しているのであれば、労働弁護士のフォローを随時受けながら、適切な方法で行っていくことが不可欠です。
お気軽にご相談ください。
⑵ 労働災害(労災)事故が起こった場合も弁護士のサポートは不可欠
労働災害(労災)事故が起こってしまった後や、労働者から訴えられている場合は、緊急対応が必須ですので、すぐに専門の弁護士の対応が必要です。
すぐにご相談することをお勧めします。
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