弊社は、複数店舗を構える小売業を営んでいます。
従業員の所定労働時間は、昔から9:00~17:00の休憩1時間の7時間勤務にしているのですが、店舗の営業時間が10:00~20:00までとなっていて、交替勤務の人員が確保できません。
結果として、17:00の7時間で業務が終わることは少なく、結局ほぼ20時まで働いててもらっているのが常態になっています。つまり、1日平均10時間以上働いていると思います。
休日については、4週4日の変形休日制度を採用していますが、店舗の休みが少ないので、休日も月に2~3日とれるかどうかの状態です。
残業手当は、固定の月3万円を支払っているのですが、弊社が時間外労働や休日労働の未払残業代を請求されるリスクはありますか。どんなリスクがあるのでしょうか。
1日8時間を超え、週に40時間を超えて労働している場合は割増賃金を含めて時間外労働の賃金(未払残業代)を請求されるリスクがあります。
法定休日労働の賃金についても、4週4日の変形休日を採用していた場合、それを下回る休日は法定外休日となりますので、休日の割増賃金が発生します。
月3万円の固定残業代が払われているとのことですが、固定残業代の要件は厳しいですし、差額分が払わていない状態ですから、そもそも固定残業代制度自体が無効となってしまう可能性も高いです。
そうしたことから、従業員の方からかなり多額の未払残業代請求を受けるリスクがありますし、労働時準監督署の是正勧告を受ける可能性もとても高いです。早急な改善が必要です。
未払残業代(時間外労働、休日労働の賃金)の問題ですが、まずは労働時間と休日についての基本を確認しておきましょう。
ご相談の会社のように9:00~17:00(休憩1時間)等と、会社には所定労働時間が決められています。
休日については、たとえば、「土日、国民の祝日、年末年始、会社の創立記念日」など、ある程度自由に決められることも多いですが、日数の特定ができるように推奨されています。
なので、「年末年始」という記載ではなく、「12月29日~1月3日」等と特定する方が望ましいです。
この労働時間や休日は、労働基準法で決められたルールがあります(労働基準法32条)。
法律で決められた労働時間のことを法定労働時間、法律で決められた休日のことを法定休日といいます。
・1日の労働時間は8時間まで
・1週間の労働時間は40時間まで
・休日は毎週1日以上
・または、4週間を通じて4日以上(変形週休制)
※この点は2026年の労働時基準法改正で、2週間2日の枠になることが予定されています。
時間外労働とは、広くは所定労働時間を延長して労働させることをいいます。いわゆる「残業」を総称して使うことが多い言葉ですが、法律上は二つの意味に分かれます。
一つは、法内時間外労働というものです。たとえば、相談の会社のように1日7時間労働の会社では、7時間を超えて8時間までの間の労働は、法内時間外労働といわれます。
もう一つは、法定時間外労働というものです。1日または1週の法定労働時間を超える労働のことをいいます。たとえば1日8時間を超えて働くか、1週間40時間を超えた場合は法定時間外労働として、基本的に労働基準法の規制を受けることになります。
ご相談のケースでは、以下のとおりとなります。

休日労働は、広くは所定休日に労働をさせることをいいます。
そのうち、法定外休日労働とは、週休制の法定休日に働くことです。
たとえば、1週間で1日も休みがない場合、法定休日に働いていることになるので、法定外休日労働をしたことになるのです(ただし、変形週休制になっている場合や、振替休日を採用している場合は別です)。
ここは間違えやすいのですが、たとえば土日休みの週休二日制の会社で、土曜日を出勤したからといっても、法定外休日労働をしたことにはなりません。
日曜日が休みであれば、「休日は毎週1日以上」という労働基準法の法定休日ルールには違反しないからです。
では、相談の会社のように時間外労働・休日労働が常態になっている場合の会社のリスクは何でしょうか。
法定時間外労働・休日労働をすることは、原則として労働基準法違反です。
ただし、三六協定を結んで届出していれば、直ちに会社が処罰を受けるわけではありません。多くの会社は三六協定を結んでいるので、従業員に対して時間外労働をさせることができるのです。
ただ、三六協定を届け出ている、としても注意は必要です。
まず、三六協定は従業員代表と取り交わしが必要ですが、この従業員代表の選出は民主的な形で、従業員の過半数の信任を取る必要があります。
ところが、多くの会社は会社の指名する従業員を従業員代表としてしまっていたり、その選任方法に問題があるケースも多いところです。ここは2026年の労働基準法の改正でも厳しくルール化されることが予定されています。
さらに、三六協定は基本1年ごとに更新して取り交わしをし直すこと必要ですが、この更新を忘れてしまうことがあります。この点、自動更新は基本的に推奨されませんので、毎月届出を忘れずに行うことが必要です。
また、近年問題となりやすいのは三六協定の時間外の上限規制に引っかからないか、という点です。
三六協定の上限は原則「月45時間、年360時間」を超えてはいけません。
特別条項という形で、最大年間720時間までにすることもできますが、文字通り特別な事情が必要ですし、45時間を超えることができるのは年間6回までです。
会社には、労働者が働いた分の賃金を支払う義務があります(賃金全額払いの原則、労働基準法24条1項)。
この義務を果たさなければ労働基準法に違反することになります。
法内時間外労働をした場合も、未払賃金分を会社に請求することができます(ただし、この場合はプレミア付きの割増賃金は請求できません。)。
法外時間外労働・休日労働をした場合は、以下のとおり「プレミア付き」の時間外割増・休日割増賃金を払わなければならないとされています(深夜労働をした場合は、さらに深夜割増賃金がプラスされます。)。これが労働基準法で決まっています。
・1日8時間を超える残業(週40時間を超える)→25%増し
・1ヶ月に60時間を超える法外残業→50%増し
・休日労働→35%増し
・午後10時~午前5時→25%増し
時々、会社から「三六協定を結んでいるから割増賃金は払う必要はない!」などという反論をされることがありますが、これは誤解です。
三六協定は、あくまでも、時間外労働・休日労働をさせても労働基準法違反にならない、というだけのことです。
割増賃金は別途発生しますので、注意して下さい。
また、残業代の未払については労働基準監督署の動きはとても速いです。
ご相談のような事例で、労働者が労働基準監督署に駆け込んでしまうと、即是正勧告に繋がってしまいます。
状況がひどい案件で、素直に是正をしない場合は社名公表等のリスクもあります。
労働基準監督署が入ったとしても適切に是正報告をして、改善に努めれば問題はないのですが、問題が別の点に波及することも多く、対応のコストは大きくなります。
ここ最近、未払い残業代請求は急増しています。10年前に比べて本当に増えたという実感です。
ただ、未払残業代の請求というのは、そう簡単ではありません。
法律のルールに従った計算をした上で、会社が主張する様々な反論を法律に従ってクリアして行く必要があります。
相手の請求が正確かどうかを検算するためには、労働案件の経験のある弁護士への相談は不可欠かと思います。
証拠開示の判断、労働者との交渉、適切な法的主張を行って、適切な解決を探ることができます。
最後に、残業代請求のリスクをまとめます。
内容証明が届き、未払い残業代を請求されることが多いです。今は未払い賃金の時効は3年ですから、かなりの長期間になることが予想されます。
弁護士が入ることもあれば、労働組合や外部ユニオンが入って請求されることがあります。いずれにしても無視はできません。対応の時間・労力がとてもかかります。
タイムカード等の残業の記録が労働者手元に残っていなくても、「資料を開示せよ」と要求されることがとても多いです。
基本的にはこれには応じざるを得ないのですが、資料の準備・どこまで出してよいかの判断などに迫られることになります。
会社が資料の開示を渋っていたりして、タイムカードを改ざんする危険のあると判断されると、裁判所に証拠保全の申立をされることがあります。
この手続は、裁判所と労働者(+弁護士)が会社にアポイントもなく立ち入ってきて、タイムカード等の記録を保全されるというものでして、営業時間中にやられてしまうと、とても影響が大きいです。
また、法律争点は多岐にわたります。これを会社で判断して対応すること、そして法的に正しい計算をしてどの水準で提案するのかなど、非常に難しい交渉スキルを要します。
最後は、労働審判か民事訴訟等の裁判所での手続で請求されると、これは付加金を含めて差押えされるリスクが伴います。
労働審判か訴訟のいずれの手続も、対応は弁護士ではないと難しい手続となります。ここの事態になる前に対応をするのが重要です。