年金制度改革法案ポイント別解説(現行制度・改正の概要・変更の時期)

社労士の出口です。

去る5月16日、年金制度の改正法案が国会提出されました。そのポイント(現行制度・改正の概要・変更の時期)をお伝え申し上げます。

文章中、説明を簡潔にしているところが数点ありますが、概要説明を目的としておりますため、詳細でないことにつきましてはご容赦下さい。

公的年金制度の見直し

被用者保険(厚生年金保険等)の被保険者枠拡大

令和6年の10月から、被保険者数51人以上の企業規模に対し短時間労働者の適用がされておりますが、それが令和9年10月以降、更に段階的に撤廃され、同時に短時間労働者の4要件(週所定労働20時間以上・月額賃金88,000円以上・雇用契約期間2か月以上・学生以外)のうち、月額賃金の要件もなくなります。

将来的には企業規模がどんなに小さくとも、短時間労働者の基準で社会保険の適用がされるようになる、ということです。また、月額賃金の要件が将来的に撤廃されることで、いわゆる「106万円の社会保険被保険者の壁」の考えが徐々になくなる、とも考えられます。

在職老齢年金制度の見直し

60歳以上の厚生年金保険等の被保険者が同時に厚生年金の受給者である場合、現在は総報酬月額相当額(おおよその給与収入+その月以前1年間の標準賞与額の合計÷12)と年金の基本月額との合計額が51万円(収入基準額)を超える場合は年金額の支給調整が起こりますが、その収入基準額を令和8年4月より、62万円に引き上げる予定です。

年金を受給しながら働く場合の、働き方の幅が広がると言えるでしょう。

遺族年金の受給開始時期の改善

配偶者を亡くした人が受け取る「遺族厚生年金」について、 今までは、30歳以上の、子を持たない女性(妻)は自らの年金を受給するまでの間、終始受給でき、男性(夫)には一定年齢までの支給停止期間などの制約がありました。令和10年4月からは男女ともに「原則5年間」だけ受給できる有期給付制度となり、低所得者などの一定要件者については、最長65歳までの所得に応じた給付継続がされるようになります。

一方、年金額については、有期給付となる代わりに遺族厚生年金の年金額は現行制度の1.3倍となる予定ですが、男女差解消の一つとして「中高齢寡婦加算」も段階的に廃止される予定です。(なお、令和10年4月までに40歳以上となる妻については、現行制度が引き続き適用されます。)

こうした遺族厚生年金の内容見直しに伴い、「遺族基礎年金」については、子に受給資格が発生するケースが増えるなど、調整が入ります。

遺族厚生年金については特に、男女の格差をなくした公平制度を目指していると言えます。

厚生年金保険料の「標準報酬月額」上限額の段階的引き上げ

現行制度では、標準報酬月額の上限は65万円(一方で健康保険の上限は139万円)で固定されていますが、段階的に75万円まで引き上げることが決定されました。 具体的には、

令和 9 年9月→68万円
令和10年9月→71万円
令和11年9月→75万円

と、3回に分けて引き上げが実施されます。 これに伴い、上限付近に該当する高額報酬者について、保険料の算定対象が広がることになります。

私的年金制度の見直し

個人型確定拠出年金 iDeCo 加入可能年齢の引上げ

iDeCoへの加入ならびに拠出可能年齢の現状は、国民年金の第1号ならびに第3号被保険者の場合は60歳未満、第2号被保険者と任意加入者は65歳未満、です。

ここに対し、働き方の多様化に対応し、誰もが公平に公的年金以外での資産形成もできる制度となることを目指すため、iDeCoを活用した老後の資産形成を継続する者に対し、いずれの場合でも60歳以上70歳までが加入・拠出可能年齢に加わり、被保険者の種類ごとの上限年齢が一律になります。

本件の発効日は、令和8年4月から3年以内の日で、追って定められます。

iDeCoは毎月の掛金全額が所得控除の対象となるなど、税制優遇が非常に大きい制度ですが、加入率は3割弱(全国の成人を対象とした調査結果)にとどまります。制度の理解とライフプランへの組み込みが進めば、今後さらに普及する可能性があります。

企業年金(DB/DC)の運用の可視化

会社が拠出・運用・管理・給付までの責任を負う「確定給付」型の企業年金制度がDB(確定給付型企業年金)、会社が(あるいはマッチング拠出により従業員も)拠出した掛金に対し従業員が運用責任を負い、運用結果によって年金資産額が変動するDC(確定拠出型企業年金)、の2つがいわゆる「企業年金」制度です。

運営状況については、企業から厚生労働省への報告書の提出義務などもあるものの、一般には公開されておりません。今後、法改正により一般公開が進むことで、企業年金の加入者等が、自らの最善の利益のために運営を改善できるようになることを目指します。

一般公開される事項は、事業主報告書・確定拠出年金運営管理機関業務報告書の内容がベースとなる、と考えられています。

その他の見直し

年金受給者に対する、子に係る加算等の見直し

近年、児童(扶養)手当の拡充、企業における被用者に対する扶養手当に関する支援強化が広まっていることなどを受け、年金制度においても、

・子に係る加算の仕組みがある場合は、第3子に係る加算を第1子・2子にかかる分と同額基準に引上げを行い、更に全体の額を引上げ

・子に係る加算のない年金については、子に係る加算を創設する(障害・遺族厚生年金や老齢基礎年金がその対象)

と、制度拡充が行われます。

また、女性の社会進出や共働き世帯の増加など、社会状況の変化を踏まえ、老齢厚生年金を対象とした配偶者にかかる加算額にも見直しが入ります。

本件は令和10年4月1日改正事項です。

脱退一時金制度の見直し

脱退一時金とは、日本に短期滞在して厚生年金保険に6ヶ月以上加入していた外国人が、年金を受け取る資格を得る前に母国へ帰る際に、申請により納めた保険料の一部を受け取れる仕組みです。外国人の滞在期間が長期化していることや、老後を日本で暮らす可能性も増加していると考えられる中で、脱退一時金の支給上限を見直したり、将来の年金受給に結び付けやすい仕組みへの変更を目指します。

本件の発効日は、令和8年4月から3年以内の日で、追って定められます。

具体的には…

・支給上限を5年から8年に引上げ(本件は政令による措置となります)

・再入国許可付きで出国した者には、当該許可の有効期間内の脱退一時金支給を行わない
(ただし、再入国をしないまま許可期限を経過した場合には、受給が可能)

ことが変更事項となります。

※報酬比例部分のマクロ経済スライド給付調整の継続や社保審査会法等の改正・修正事項の説明は省略します。

  • メルマガ登録

    セミナー情報や労務に役立つ
    情報を配信いたします。ご希望の方は、
    フォームよりご登録ください。

    メルマガ登録

  • 資料ダウンロード

    人事業務や労務リテラシー向上など、
    労務に関する資料を無料で
    ダウンロードいただけます。

    資料ダウンロード

  • お問い合わせ

    問い合わせフォームに必要事項を
    ご記入の上お送りください。
    後ほど担当者よりご連絡いたします。

    お問い合わせ