相談内容
私の夫は、大手広告会社に勤めていたのですが、ここ最近毎日深夜になって帰宅する日が続いていました。
凄く疲れ切っている様子で、本当に心配していたのですが、先日大きなプロジェクトを終えて一段落したようでした。
これで少しは仕事が楽になるかと思っていたのですが、夫は直後に自殺してしまいました。
夫の遺書には、長時間の仕事のストレスや、上司からのパワハラがあったこと等が書かれていました。
うつ病の診断も受けていたようです。私としては、夫は会社に殺されたも同然だという思いです。
これから私達家族はどうすればいいのでしょうか。
労災と認定されるのでしょうか。
また、会社に対して責任を追及することはできませんか。
回答
まず考えられるのは、労災保険の給付ですが、精神障害による自殺の業務起因性が認められる必要があります。
また、会社への請求については、長時間労働を強いている事実等から会社の安全配慮義務違反が認められれば、労災保険では填補されない損害についても請求が可能です。
賠償の内容としては、死亡に対する慰謝料や将来の逸失利益等が含まれますので、多額の請求になるケースが多いでしょう。
解説
1 過労死・過労自殺の場合の労働災害(労災)の認定
近時、有名企業の過労自殺が報道されたように、長時間労働等に起因して労働者が精神障害を患って、自殺してしまうという過労死・過労自殺の事案は未だ後を絶ちません。
残された遺族にとって、まず考えられる方法は労働災害(労災)給付です。
労働災害(労災)の詳しい内容については、こちら「労災事故に遭われた方へ」
⑴ 労働者の死亡の際の労災給付
労働災害(労災)によって労働者が死亡した場合は、遺族補償年金等の遺族補償給付の支給がされます。
遺族補償年金は、受給権者及びその者と生計が同じ人の人数に応じて支給されます。
⑵ 過労死の労働災害(労災)認定基準
長時間労働等の仕事による疲労やストレスが蓄積して、脳・心臓疾患(脳出血、くも膜下出血、脳梗塞等)を発症して死亡するに至ったものが、いわゆる過労死と言われています。
こうした脳・心臓疾患等による過労死については、厚生労働省が「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基準について」という認定基準を出しています(平成13年12月12日基発1063号)。
実務上この基準が前提とされています。
この認定基準では、業務による明らかな過重負荷が加わることによって、血管病変等が自然経過を超えて著しく憎悪し、脳・心臓疾患が発症する場合があるとし、そのような経過をたどって発症した脳・心臓疾患は、その発症に当たって、業務が相対的に有力な原因であると判断される、との考え方をとっています。
【業務による明らかな加重負荷とされる場面】
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※「過重な業務」かどうかについては、量的な過重性と質的な過重性が問題です。 量的な過重性については、発症前1ヶ月間に概ね100時間、発症前2ヶ月間~6ヶ月間にわったって1ヶ月当たり概ね80時間を超える時間外労働が認められる場合は業務との関連性が強いと判断されています。 質的な過重性については、勤務の不規則性、劣悪・過酷な作業環境、精神的緊張を伴う業務であるかどうか等が問題になります。 |
⑶ 過労自殺の労働災害(労災) 認定基準
労働者が、業務上の疾病として発病した精神障害のために自殺した場合が過労自殺の問題と言われています。
過労自殺の労災認定については、「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(平成23年12月26日基発1226号第1号)が基準を定めており、実務上の指針として重要です。
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2 民事賠償責任(安全配慮義務違反)の追及
⑴ 労災保険では支給されない損害の請求
以上の労災給付が認められたとしても、死亡慰謝料や死亡逸失利益等の損害の請求は認められません。
死亡慰謝料については、通常数千万単位の賠償になります。
また、死亡逸失利益は、亡くなった労働者の方が生涯働いて得られるはずであった賃金相当額を請求することになりますから、数千万以上になることも珍しくありません。
⑵ 会社の安全配慮義務違反を追及する
会社の「過失」(安全配慮義務違反)を理由として、こうした損害賠償を請求するに際して大変なのは、やはり会社の「過失」(安全配慮義務違反)の証明です。
実際の裁判においては、その過失については、労働者側で組み立てて、証拠によって証明することが求められるのが実情です。
過労死・過労自殺のケースでは、業務の過重性や心理的負荷等を具体的に証明していく必要があります。
特に労災事故の場合、証拠がほとんど会社側にありますので、その証明は容易ではありません。
3 過労死・過労自殺被害で悩んでいる遺族の方は弁護士に相談
過労死・過労自殺被害について実際に請求を行う場合には、上記のようなハードルが存在します。
特に、安全配慮義務違反については、証拠集めも難しく、訴訟手続も簡単ではありません。
やはり労働案件の経験のある弁護士への相談は不可欠かと思います。
証拠の収集方法、会社との交渉、適切な法的手続の選択を行って、適切な請求を行うことが可能です。
労災事故によって大切な命が失われたのであれば、それはもはや人災に等しいものです。
仮に難しい事件であっても、簡単に諦めてしまわず、専門の弁護士に一度ご相談してみてはいかがでしょうか。