相談内容
弊社は飲食店を経営しております。学生を含めたパートやアルバイトの社員が多いのですが、雇用契約は期間1年として契約しています。
その中には、学生時代からずっと勤務している者もおりまして、既に7回更新、8年間働いています。その者は既にベテランのアルバイト社員として、アルバイトの指導や管理を行っています。
実際には正社員の方と比べても仕事内容は変わりませんし、会社としても貴重な人材なので、更新のたびに「末永くやってほしい」と常々言っています。
ところが、最近、そのアルバイト社員が、「待遇が正社員と全然違うことに納得がいかない」と不満を言ってきました。
それまでそんなことは全く言わずに仕事をしてきてくれたのに、急に目に見えてやる気がなくなってしまったようで当社としても困ってしまいました。社内で検討しましたが、次回の契約期間の満了をもって更新はせずに雇止めをしようと考えています。
この対応に何か問題があるでしょうか。また、待遇が正社員と違うことは何か問題になるのでしょうか。
回答
今回、5年以上の有期雇用を継続しているため、アルバイト従業員は無期転換権を持っています。
もし雇止めをしたとしても、無期転換権を行使されますと、有期契約ではなくなることとなるので雇止めは無効になります。
そうでなくとも、正社員と同じ基幹業務に従事させて、7回更新・8年間の長期の有期雇用の更新を続けている状況です。「長く働いてほしい」という発言も相まって、有期契約期間の更新の期待を有する状況ですので、この観点からも雇止めが違法無効となる可能性が高いです。
さらに、正社員との待遇が違っていたという点については、同一労働同一賃金の観点から、差額賃金の請求をされる可能性もあります。
解説
1 非正規労働者(アルバイト・パート・契約社員)も労働関係法律によって保護される
ご相談のように、飲食店・小売業・製造業等では、労働力の多くをアルバイトやパートタイマーの方に頼っている会社は多いです。
こうした企業において、労働トラブルが増えています。
少し前になりますが飲食店では、「ブラックバイト」という言葉も流行になり、ここ最近はアルバイトの労務管理への関心が非常に高まっています。
かなり労働法関係の知識は広まってきているのですが、それでも未だにアルバイトやパートタイマーの方を適切に扱っていない中小企業も少なくありません。
経営者の方から「アルバイトに有給休暇はないんでしょ」という発言を聞くことがいまだにあり、驚くことがあるのです。
アルバイト・パートの従業員も、「労働者」です。労働基準法、労働契約法等数々の法律によって保護されていて、その保護内容は、基本的に正社員等と変わりません。
また「契約社員」という場合、単に雇用期間が定められている従業員を指す場合が多いですが、法律の保護は正社員と基本的に同じです。
さらに、かつてパートタイマーや契約社員は、「非正規雇用労働者」と言われ、労働環境も差別されてきた反省から、2018年4月に制定された「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(通称、「短時間・有期雇用労働者法」)により、より手厚い保護がされるようになっています。
企業も、パートタイマーや契約社員について穴のある雇用契約書や就業規則で済ませていることが少なくありませんので、今一度チェックしてみることをお勧めします
2 正社員との待遇の差別と不合理な区別は禁止(同一労働同一賃金)
まず、正社員との待遇との対比を考える際は、同一労働同一賃金のルールが重要です。
正社員と非正規労働者と言われたパートタイマーや契約社員の待遇には、かつて大きな差があることが多かったため、短時間・有期雇用労働者法はその差を埋めるための法的なルールを設けたのです。
それが日本版「同一労働同一賃金」と言われています。
⑴ パートタイマー・契約社員と正社員との待遇差別の禁止ルール
まず、短時間・有期雇用労働者法9条について解説します。
短時間・有期雇用労働者法9条(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)
事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるものについては、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。
これは、パートタイマーや契約社員について、①業務内容と責任が正社員と同一で、②雇用契約の全期間にわたって正社員と同じ転勤や配置換え等がある場合、基本的には正社員とは待遇についての一切の差別が禁止されるのです。
文字通り、ボーナスを含めた賃金、福利厚生等のあらゆる待遇の差別が禁止されます。
ただし、次の短時間・有期雇用労働者法8条の「合理的な区別」については例外があります。
⑵ パートタイマー・契約社員と正社員との合理的な区別は許容される。
続いての条文は、短時間・有期雇用労働者法8条です。
短時間・有期雇用労働者法8条(不合理な待遇の禁止)
事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
先ほどの9条との関係が少しわかりづらいですね。
この条文は、9条のように①業務内容と責任が正社員と同一で、②正社員と同じ転勤や配置換え等に服する場合であったとしても、「待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮」して合理的な区別であれば、その区別は許されるということを規定したものです。
つまり、単にパートであるとか、契約が有期雇用だという理由だけで手当を出さない等はダメですが、その手当を出さないことについて合理的な理由がつけばOK、ということです。
とはいえ、この点はかなりシビアに制度設計をしなければなりません。
もしこの点で9条や8条に違法があった場合は、会社はその待遇の差額分の損害賠償請求等を受けることになってしまいます。
3 期間満了による雇用契約終了が制限される場合
⑴ 有期労働契約の雇用期間のルール(原則)
相談者の方のように、雇用契約が1年と決まっている契約を有期労働契約といいます。アルバイトの方や契約社員の方は、こうした有期労働契約になっていることが多いです。
ただし、そうとは限りませんので、しっかりと雇用契約書を確認することは重要です。
有期労働契約は、文字どおり期間が定められた雇用契約です。
ですので、契約法理の大原則としては、定められた契約期間の満了によって労働契約が終了することになります(有期労働契約の終了を使用者が告げることを「雇止め」といわれます)。
更新するかどうかは、会社側の判断とされるのが原則なのです。
⑵ 雇止めも自由ではない
しかし、どんな場面でも雇止めが自由にできるとなると問題です。
たとえば、実際には正社員とほとんど変わらないような相談者の方のような場合でも、自由に雇止めができるとなると、会社は、都合が悪くなったり、労働者を切りたくなった段階で、好きなように労働者を辞めさせることができることになってしまいます。
これでは、解雇を厳しく制限した労働法のルールの意味が無くなってしまいます。
そこで、労働契約法19条は、雇止めを制限するルールを定めています。
⑶ 雇止の制限ルール(労働契約法19条)
労働契約法19条は、一定の場合、雇止めについても解雇権濫用法理を適用するものです。
労働者の更新の申し込みを拒絶することが、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」には、これまでと同じ雇用条件の有期労働契約が締結されたのと同じ効力を持つとされています。
労働契約法19条は、次の二つの場面で、こうした雇止めの規制がされます。
- 実質的に無期契約と同一のタイプ(労働契約法19条1号)
有期労働契約の更新手続が形骸化している場面が典型です。
たとえば、契約書も交わされないままに契約更新が続けられているケース等です。この場合、有期労働契約が無期労働契約とほとんど同じです。
雇止めの意思表示が解雇と同じである以上、解雇権濫用法理が適用されることになるのです。 - 契約更新への期待を有するタイプ(労働契約法19条2号)
最もトラブルになることが多いのは、このタイプです。
契約更新への期待を持つかどうかは、色々な要素を総合的に考慮して判断されることになります。
一つの事情だけで決まるものではないので、判断については弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
ⅰ 業務内容が臨時的か、永続的か
たとえば、業務内容が一定の期間だけを予定する臨時的なものである場合、更新への期待は低くなります。業務内容が臨時的である場合は大きくマイナスに作用します。
ⅱ 更新回数と勤続期間
更新回数としては3回程度、通算雇用年数が3年程度を越えてくる場合は、更新への期待が高まってくることになると言えるでしょう。
反面、更新が1度もない場合は、更新への期待は低いことが多いでしょう。
ⅲ 正社員と職務・権限・責任が同じか
ⅳ 更新手続の厳格さ
更新の都度に成績や勤怠などを面談等で確認して労働契約を締結しているか、それともこうした手続を踏んでいないか、と言う点です。
ⅴ 更新を期待させる言動があるか
相談者の方のように、「今後も末永く勤めてほしい」とかいう発言は、労働者に更新の期待を抱かせる事情の一つです。
ⅵ 同様の立場の労働者への雇止めの実績
会社の中で、同様の労働者への雇止めが全く行われていない場合は、更新への期待は高まることになります。
⑷ 無期転換権(労働契約法18条)
これとは別に、労働契約法18条により、有期雇用契約の労働者は、5年以上の有期雇用の更新が継続すると、無期転換権が付与されます。
これを行使すると、有期雇用契約が無期契約に転換します。労働条件はそのままではありますが、契約期間満了による終了ということがなくなることとなります。
4 アルバイト・パート・契約社員の労務管理上のリスク
⑴ 正社員との待遇差別について損害賠償請求を受ける
パートタイム労働者や有期雇用労働者の方から、正社員との差別待遇について会社に損害賠償請求などを受けるというリスクがあります。
これを防ぐには業務の内容や責任の重さ、さらには配転等の人材活用ルールといった会社組織全体を見た判断が必要ですので、専門家への相談は不可欠です。
⑵ 違法な雇止めをした場合に地位確認の請求・損害賠償請求を受ける
違法な雇止めをしてしまうと、不当解雇のケースと同様に判断されます。退職した従業員から地位確認を求められ、契約更新による雇用継続をしなければなりません。
また、違法な雇止めに対しては損害賠償を請求されることもあります。