相談内容
当社の従業員Aが、部下の女性Bをしつこく飲み会に誘ったり、性的な冗談を頻繁に言っているようです。
Bはセクハラだと訴えてきていますが、セクハラだと判断しかねています。
会社としてはどういう対応をすべきでしょうか。
POINT
セクハラについては、まず適切な調査を行うべきです。セクハラの被害申告は、事の性質上なかなか告白が難しく、慎重に聴き取りを行うことが重要です。
セクハラ被害が真実であれば、配置の見直しや、懲戒処分などを含めて厳しく処分する必要があるでしょう。
会社がセクハラ防止対策を十分に行っていない場合は、会社が民事の賠償責任を追及される可能性がありますので、適切な体制作りも不可欠です。
不十分な場合は労働専門弁護士への早めの相談が重要です。
相談が特に多い業種(産業別)
□建設業 ☑製造業 □情報通信業 □運輸・郵便業(トラック運送業)
☑卸売・小売業 □金融業・保険業 ☑不動産・物品賃貸業
□宿泊・飲食業(ホテル・飲食店等) ☑教育・学習支援(塾・予備校等)
☑医療・介護福祉業 ☑サービス業
※セクハラについては、製造業、卸売・小売業、不動産・物品賃貸業、教育・学習支援(塾・予備校等)、医療・介護福祉業、サービス業等で多くの相談があります。
1 会社がセクハラへ対応する重要性
⑴ セクハラ防止の重要性
セクハラの訴えは近年増えています。セクハラの定義は法律上明確ではありませんが、「相手方の意に反する性的言動」を広く意味するものです。
女性だけではなく、男性もセクハラの被害者となる可能性があります。
会社は、セクハラのない職場を作り上げ、皆が安心して仕事に取り組める環境を作っていかなければなりません。
セクハラになる具体的な行為については人事院規則10-10で次のように定められています。
① 職場内外で起きやすいもの⑴ 性的な内容の発言関係ア 性的な関心、欲求に基づくもの
イ 性別により差別しようとする意識等に基づくもの
(2) 性的な行動関係ア 性的な関心、欲求に基づくもの
イ 性別により差別しようとする意識等に基づくもの ② 主に職場外において起こるものア 性的な関心、欲求に基づくもの 性的な関係を強要すること。 イ 性別により差別しようとする意識等に基づくもの
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⑵ セクハラが起きた場合の会社の責任
セクハラが起きた場合、加害者が不法行為責任(民法709条)を負う可能性があるのは当然ですが、それだけではありません。
会社も、使用者責任(民法715条)による賠償責任、職場環境を十分に整えなかったこと等を理由に、安全配慮義務違反による債務不履行責任(民法415条)による賠償責任を負う可能性があります。
⑶ セクハラが違法な不法行為に該当するかどうかの判断要素
ただし、民法上の不法行為等に該当し、会社が損害賠償の責任と負うのは、セクハラ行為が重大で悪質なものとして、違法性を持っている場面に限られます。
以下の裁判例が参考になります。
【裁判例(名古屋高金沢支判平成8年10月30日)の判断基準】 その行為の態様、行為者である男性の職務上の地位、年齢、被害女性の年齢、婚姻歴の有無、両者のそれまでの関係、当該言動の行われた場所、その言動の反復・継続性、被害女性の対応等を総合的にみて、それが社会的見地から不相当と判断される場合には、性的自由ないし性的自己決定権等の人格権を侵害するものとして、違法となる。 |
2 社内でセクハラを防ぐ体制を作る
では、セクハラを防ぐ体制を作るためには、会社はどのような対応をするべきでしょうか。
厚生労働省は、セクハラの防止について「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成18年厚生労働省告示第615号)を定めています。
① セクハラに関する事業主の方針の明確化と周知・啓発
ア 職場におけるセクハラの内容を明らかにする。職場において、セクハラがあってはならないことも明確にする。 ⇒以上の点を、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発する。 イ 職場でセクハラを行った者については厳正に対処する方針と対処の方法を就業規則・文書などに定める ⇒以上の点を、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発する。 |
② 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対処するために必要な体制の整備
ア 相談への対応のための窓口をあらかじめ定めること イ 相談窓口の担当者が、相談に対してその内容や状況に応じ適切に対応できるようにする。 相談窓口においては、セクハラが現実に起こっている場合だけではなく、発生のおそれがある場合や、セクハラに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにする。 |
セクハラの被害者は、ことの性質上、中々事実関係を明確に話すことができないことが多いです。適切な聴き取りが必要です。
③ セクハラにかかる事故後の迅速な事実調査と加害者・被害者への適切な措置、再発防止措置
ア 事実関係を迅速かつ適切に確認する。 イ セクハラの事実が確認できた場合においては、加害者に対する措置・被害者に対する措置を適切に行う。 ウ 改めてセクハラに関する方針を周知・啓発する等、再発防止に向けた措置を講ずる。セクハラの発生が確認できなかった場合も、同様の措置を講ずること。 |
加害者を含め、事実関係を確認することが重要です。
④ 申告者・調査協力者等のプライバシー保護と不利益取扱禁止
ア セクハラ相談者・行為者の情報はプライバシーに関わるものであることから、プライバシー保護するための適切な措置を講じると共に、その旨を労働者に周知する。 イ 労働者がセクハラを相談したこと、事実関係の協力をしたことを理由とした不利益な取り扱いを行ってはいけない旨を定め、これを労働者に周知する。 |
セクハラの訴えや、周囲の協力者の話は、プライバシーに踏み込む内容も含まれますので、こうした措置を適切にとることも重要です。
3 セクハラを行った社員への対応方法
⑴ 懲戒処分を行うかどうか
セクハラの事実が認められる場合、加害者である従業員に対する懲戒処分を検討することも必要です。
戒告・減給・出勤停止・懲戒解雇等の処分をして、厳しく対応することも、セクハラに対する適切な対応の一つです。
⇒「懲戒処分の進め方」
もっとも、セクハラについて懲戒処分を行うかどうかは、以下の点を総合的に考慮することが必要です。
【セクハラをした従業員を懲戒処分すべきかどうかの基準】
☑セクハラの具体的態様 ☑セクハラの回数 ☑被害者の受けた被害の程度 ☑セクハラに至る経緯・目的 ☑加害者と被害者の地位や関係 ☑業務への影響 ☑加害者の反省や謝罪の有無 |
⑵ 解雇処分までを行うか
こうした観点から、一言にセクハラといっても、簡単に処分は決められないことがわかります。
強姦や強制わいせつ等の犯罪行為はもちろん、日常的に身体的接触を繰り返すようなケースでは悪質性が高く、解雇が有効とされることが多いでしょう。
また、発言のセクハラであっても、その回数が重なり、悪質性が高くなってくれば解雇処分が正当とされることもあります。
⇒「解雇が可能な場合について」
4 従業員のセクハラは、弁護士への相談をおすすめします。
⑴ 事前予防のための弁護士利用
このように、セクハラは未然に防ぐために体制作りが非常に重要です。
リスクを避け、適正な労働安全管理を行うためには、労働実務を踏まえた判断・手続が不可欠ですので、法的な労務管理の専門家の労働弁護士に相談するのが一番です。
もし、安全衛生を検討しているのであれば、労働弁護士のフォローを随時受けながら、適切な方法で行っていくことが不可欠です。お気軽にご相談ください。
⑵ セクハラが発生した場合も弁護士のサポートは不可欠
セクハラが起こってしまった後や、労働者から訴えられている場合は、緊急対応が必須ですので、すぐに専門の弁護士の対応が必要です。
すぐにご相談することをお勧めします。
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