相談内容
当社の従業員で、メンタルヘルス不調の疑いがある従業員がいます。
出勤しても全く十分な仕事ができていない状態が続いています。
さすがに最近の状況は目に余るものがありますので、解雇も含めて検討しています。
会社としてはどのように対応するべきでしょうか。
POINT
安易な対応は禁物です。
メンタルヘルス不調が疑われる従業員に対しては、会社として、メンタルヘルスの不調が悪化しないように配慮すべき義務があります。
私傷病休職制度の利用も検討すべきでしょう。
相談が特に多い業種(産業別)
□建設業 ☑製造業 ☑情報通信業 ☑運輸・郵便業(トラック運送業)
☑卸売・小売業 ☑金融業・保険業 □不動産・物品賃貸業
□宿泊・飲食業(ホテル・飲食店等) ☑教育・学習支援(塾・予備校等)
☑医療・介護福祉業 ☑サービス業
※メンタルヘルスの問題については、特に製造業、医療介護福祉、サービス業で問題が多く見られますが、様々な業種で多くの相談があります。
1 メンタルヘルス不調の従業員への対応
⑴ メンタルヘルス不調の従業員への配慮は会社の義務
メンタルヘルス不調による従業員の勤怠不良等の問題は、近年とても多くなっています。会社は、そうした従業員を漫然と放置してはいけません。
会社は、健康診断の結果に基づき、労働者の健康を保持するため必要な措置について医師等の意見を聴取する義務があります(労働安全衛生法66条の4)。
そして、必要があるときは、就業場所を変更したり、作業を転換したりする等、適切な措置を講じる義務があります(労働安全衛生法66条の5)。
会社が労働者の健康状態を把握して、労働者の健康を保持するための適切な措置をとることは、会社の安全配慮義務となります。
メンタルヘルス不調の従業員に対して、業務を続けさせることがさらにメンタルヘルス悪化につながるような場面では、従業員からの申し出が無くても、速やかに業務から離脱させて休養させるか、他の業務に配転させることも、会社の安全配慮義務です(神戸地裁姫路地判平成7年7月31日)。
こうした義務を怠り、従業員のメンタルヘルス悪化を招いてしまった場合、会社の安全配慮義務違反として、損害賠償責任を負う可能性があるのです(民法415条)
⑵ メンタルヘルス不調の発見のきっかけ
それでは、会社が従業員のメンタルヘルス不調を発見した場合はどう対処すべきでしょうか。
プライバシーの問題もありますので、安易にメンタルヘルスの問題を突っ込むことも中々難しいところです。
一つの端緒は定期的な健康診断ですが、日常的な異変が見られる場合についても個別対応が求められることがあります。
平成27年から実施されることになったストレスチェック制度も、労働者の心理的負担を図るものとして、活用が期待されるものです。
2 私傷病休職制度を利用する
⑴ 私傷病休職とは
ご相談のように、メンタルヘルス不調が発見されて勤怠不良の状態だったとしても、いきなり解雇することはできません。
ここで利用すべきは私傷病休職の制度です。業務外の病気や精神疾患等による欠勤が一定の期間(3~6ヶ月が多いです)になった時に命じるものです。
病気や精神疾患が回復(治癒)しなければ、会社から自然退職又は解雇されることになりますので、労働が不能な労働者についての解雇を一定期間猶予する制度と言われています。
ただし、私傷病休職の発令のためには、就業規則に規定して、労働契約の内容にしておくことが前提です。
⑵ どういう場合に私傷病休職を発令するか
まず、私傷病休職を欠勤や勤怠不良が続き、メンタルヘルス不調が明らかに疑われる場合等は、まず診断書の提出を求めることが必要です。
そして、場合によっては、従業員の同意を得た上で人事担当者が主治医と面談することも検討しましょう。
通院期間や頻度、回復の見通し、今後の就労の見通しなどを確認・検討した上で、社内の人事課と直属の上司等で協議し、私傷病休職を発令するかどうかを判断すべきです。
⑶ 復職の可否の判断は?
私傷病休職の従業員が復職を希望する場合も慎重な判断が必要です。
診断書の提出を求めるだけではなく、やはり主治医との面談が望ましいです。
さらに、産業医など、会社が指定した医師の判断を仰ぐことも重要です。
基本的には会社の業務内容を把握し、復職が可能かどうかを判断できる専門家の意見を踏まえて判断を行うべきです。
職場復帰の判断を目的として、本来の職場等に、試験的に一定期間継続して出勤させる「試し出社」も検討するべきでしょう。
もっとも、復職を巡るトラブルも多いので、慎重に判断すべきでしょう。
3 メンタルヘルス不調の従業員対応を誤った場合の会社のリスク
メンタルヘルス不調の従業員への対応を誤り、その症状が悪化し、最悪の場合、自殺などによって命を落としてしまうケースもあります。
そのこと自体がとても大きな損失であることは言うまでもありません。
その上、会社が多大な賠償責任を負ったり、企業のイメージが大きく低下してしまうことで、会社の存続の危機になることも少なくありません。
4 メンタルヘルスの管理を十分に行って安全配慮義務を尽くすことが重要
現在、メンタルヘルス不調の相談は極めて多いです。
メンタルヘルス不調によって職場環境が悪化することもありますので、安全配慮義務を尽くし、メンタルヘルス不調の端緒を的確に掴み、速やかに対応を行うことが重要です。
どのような対処をすべきかは、業種やその具体的な作業内容等によって千差万別ですが、都度体制を見直していくことは重要です。
そして、どういったことを実施していくことが安全配慮義務を尽くすことにつながるのかは、専門家のアドバイスを参考にすべきでしょう。
5 メンタルヘルス対応は、弁護士への相談をおすすめします。
⑴ 事前予防のための弁護士利用
メンタルヘルスは未然に防ぐための体制作りが非常に重要です。
リスクを避け、適正な労働安全管理を行うためには、労働実務を踏まえた判断・手続が不可欠ですので、法的な労務管理の専門家の労働弁護士に相談するのが一番です。
もし、メンタルヘルス対応を検討しているのであれば、労働弁護士のフォローを随時受けながら、適切な方法で行っていくことが不可欠です。
お気軽にご相談ください。
⑵ メンタルヘルス不調による訴えが起こった場合も弁護士のサポートは不可欠
労働者から訴えられている場合は、緊急対応が必須ですので、すぐに専門の弁護士の対応が必要です。
すぐにご相談することをお勧めします。
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