労働弁護士の戸田です。
10月20日、千葉県社会保険労務士会千葉支部からご依頼を受け、社会保険労務士の先生方向けの研修を行いました。
千葉県社会保険労務士会千葉支部は、千葉市を中心に、四街道市、市原市、八街市、東金市、山武市、茂原市、長生郡、夷隅郡、勝浦市まで、房総半島のかなり広範囲の支部です。
会員数も千葉県内でも船橋支部に次ぐ規模ということでして、今回の研修でも相当数の先生にご参加いただきました。
今回は、「労務トラブルリスクから顧問会社を救う方法」と題して、「働き方改革を踏まえた近年の労務管理の注意点」をお話ししました。
働き方改革といっても、それ以前の「リスク」管理が非常に重要です。
労務管理のリスクの見抜き方と対応方法を、11の事例を基に検討する講義でした。
三時間、濃密な時間だったと思います。以下、簡単に内容をご紹介です。
=========================================
序章 働き方改革と労務管理
1 働き方改革:一億総活躍社会(「全員参加型社会」)の実現
① 女性の活躍促進
② 高齢者の雇用促進
③ ワーク・ライフ・バランス
テレワーク(在宅勤務)
④ 長時間労働抑制
労働時間上限、高度プロフェッショナル労働制、企画裁量労働制の適用拡大
⑤ 職場のストレスの緩和
ストレスチェックの導入、休職制度の適切な運用
2 現政権の経済成長戦略の根底には「長期雇用システムへの懐疑論」
① 少子高齢化、グローバル化等・・・成熟産業から成長産業への労働力移動
② 海外投資家・外資系企業にとっては外部労働市場型雇用システムが理解容易
③ 長期雇用では企業のグローバル展開に必要名国際人材の獲得と処遇に困難
⇒解雇の金銭解決制度の導入
3 近年の労務管理の注意点について
リスクの高い紛争をいかにして防いでいくかが、「働き方改革」の前提
解雇・退職事案と長時間労働(残業)事案が代表。これらを取り上げます。
第1章 解雇・退職事案の労務管理の重要性
【ケース0】~よくある退職相談
1 解雇は不自由
⑴ 手続的規制
① 解雇予告・予告手当(労基法20条1項)
② 解雇理由証明書の交付(労基法22条2項)
⑵ 実体的要件
① 休業期間の制限(労基法19条1項)
② 女性の妊娠中及び出産後1年経過しない場合の制限(雇均9条4項)
③ 育児介護休業の申出・取得を原因とする解雇の禁止(育児介護10条、16条)
④ 解雇権濫用法理(※⑶へ)
⑶ 解雇権濫用法理
「使用者は、客観的合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、労働者を解雇することができない(労働契約法16条)」
→解雇の不自由。滅多なことでは有効とは認められない。
→勤怠不良、規律違反等を理由とする解雇は非常に多いが、ほとんど通らない。
2 解雇の3大リスク
【ケース1】~解雇紛争と金銭解決
①経済的リスク
・復職+バックペイに見合う解決金の支払い
・退職金は免れない
・弁護士費用(!)
★リスクの濃淡
◎本当に解雇なのかどうか(自主退職ならゼロ)
◎解決まで要する期間
◎解雇だとして,解雇の理由がどの程度「黒」か
◎選択された手続・請求の相手方が誰か
②人的コスト
・交渉・訴訟等の対応に要する労力と手間(生産的な仕事が沢山できる・・・)
③社会的信用毀損リスク
・大企業のリスクは甚大(SNS・ブログなどでの拡散)
・中小企業でも噂が回ると・・・
★重要なことはこうしたリスクから考える発想!これからのケーススタディでは、リスクをリアルに考えるところからスタートしてください。
3 高いリスクが発生した退職事案
【ケース2】納得して退職してもらったはずなのに・・・
【ケース3】行き過ぎた退職勧奨
【ケース4】解雇による高額賠償事例
【ケース5】解雇による損害賠償請求
4 退職トラブル回避する対応方法
【ケース6】~解雇を回避するための労務管理の徹底
【ケース7】~解雇前からのプロセスを徹底する
【ケース8】~やっちまった不当解雇をリカバリー
第2章 長時間労働(残業代)に関する労務トラブル
1 長時間労働(残業代)トラブルの傾向
◎残業代請求は会社を辞めた労働者から突然起こされることが多い。
◎やっかいなのは在職中の労働者からの請求。
◎結局は会社への不満の蓄積が引き金。
◎運送業、飲食業等、人材不足でも仕事は多数。どうすりゃいいの!?
2 長時間労働による会社のリスクとは?
① 経済的負担
解雇紛争以上に多額になりがち。
② 対応コスト
認めるか、突っぱねるかのラインを誤ると泥沼
③ 社会的信用の低下
昨今、長時間労働への社会の目は極めて厳しい。
3 労働者からの請求バリエーションとリスクの段階的構造
① 本人からの請求
専門家の助言を得ている可能性があり。なめてはいけない。
② 労基署の指導・勧告
リスクの端緒。誠実に対応が必要。
③ 合同労組、ユニオンからの団体交渉
請求額でかい。労基法全般にわたる指摘が特徴。
④ 弁護士からの請求(交渉)
弁護士次第
⑤ 労働審判
詳細な事実認定までは行わないので、満額払いのリスクは低い
ただし、証拠の乏しい事案でも認否による和解を強いられる
⑥ 訴訟
時間立証を詰めていくので、請求満額リスクは大(証拠によるが)。
遅延損害金+付加金のリスク
【残業代リスク増大の実例】
4 残業代請求リスクのケーススタディ
【ケース9】~証拠のない残業代請求への対応
【ケース10】労働時間の立証
【ケース11】在職中の従業員からの残業代請求への対処方法
5 残業代請求の対応のまとめ・・・どうやって対応するか?
⑴ 過去の傷は少しでも浅くする!
① 計算方法の間違いを指摘する
② 労働時間の間違いを指摘する。
③ 残業代を基本給込・手当名目で支払っているとの主張(固定残業代)
④ 推計計算
⑤ 管理監督者
⑵ 将来の未払残業代発生を防ぐ
① 二次紛争の波及防止
② 労働時間管理の適正が非常に重要
③ 残業代を出さないとするなら、それに見合う規程と実態を