弁護士法人戸田労務経営です。
代表弁護士の戸田が物流・輸送業界の専門誌である輸送経済新聞社で運送業での労務問題についてのコラムの連載についての紹介です。
運輸・物流業界の労務・法律問題に精通した企業側労務専門の弁護士として紹介されております。
輸送経済新聞10月12日号掲載の第5回は運送会社での同一労働同一賃金の考え方について取り上げました。
記事内容をご紹介します。
同一労働同一賃金とは何か⑤(休暇)
これまで4回に渡って連載してきた同一労働同一賃金のテーマだが、よくある相談の一つに「休暇」の問題がある。
「特定の休暇を正規雇用のドライバーだけに与える扱いでよいのか」という相談だ。
運輸・運送業のドライバーという仕事は自動車を走らせることで初めて売上に貢献するという側面がある。そのため、ドライバーの休暇取得自体を良しとしない風潮が未だに多いのが現状だ。年次有給休暇の取得すら浸透していない現状がある。
そんな中で、たとえば、いわゆるお盆休み等の夏期休暇、年末年始休暇等の休暇をどこまで認めるかは企業にとっては大きな悩みだ。
夏期休暇や年末年始も関係ない輸送が求められる業界においては、盆も正月もないこともある。本音を言えば年中無休で走ってほしいところだが、ドライバーの人手不足は深刻である。近年の20代~30代は、とにかくライフワークバランスを重視するので、休日休暇の充実は採用のために必要不可欠だ。
正規雇用のドライバーには、夏期休暇や年末年始休暇を与えるだけでなく、冠婚葬祭の時の慶弔休暇、ドライバーが病気や怪我で長期間運転ができなくなった場合の病気休暇等、色々な休暇制度を考えていかなければならない時代だ。
そうなれば、正規雇用のドライバーの休暇の穴埋めが問題だ。ドライバー全員に休みを与えるわけにはいかない。
そこで、有期雇用(定年後再雇用)のドライバー等には夏期休暇その他の休暇は認めずに、盆正月その他も可能な限り走ってもらうという方法が考え付く。果たしてこの扱いに問題はないのか。
業種は違うが、この点の結論を出した事件がある。
2020年10月15日の日本郵政事件最高裁判決だ。夏期冬期休暇が正社員だけにしか与えられていないこと、病気休暇は正社員が有給扱いなのに対して契約社員は無給であること等の格差があることについて、契約社員が違法だと訴えた事件である。
最高裁は、この格差をいずれも違法だと判断したのだ。(表)
これらの休暇の趣旨・目的からすると、正規と非正規でこれを区別する理由がない、という判断だ。
この夏期冬期休暇の格差が違法とされたことは非常にインパクトが大きい。
これまで、運輸・運送業界だけでなく、夏期・年末年始休暇を正社員だけとして、非正規社員、特にパートタイマー等については当然のように与えていない企業は多数あった。
しかし、その扱いは違法で、休暇日数分の損害賠償を払う必要があるというのがこの判決だ。この慣例的な扱いも変えなければならない。
病気休暇も同様だ。病気や怪我で長期欠勤をするドライバーについての待遇は同じにする必要がある。もし、正規ドライバーに病気欠勤制度があるなら、短期の有期契約ドライバーであっても、一定期間の病気欠勤を設けることを検討しなければならない。
ドライバーが休暇を取った際の欠員は、正規・非正規を区別して穴埋めするのではなく、全員でカバーしていかなければならない。
盆・正月等に走ってくれるドライバーにはそれなりのインセンティブ(年末年始手当や人事評価)を与えることも有用だろう。
病気欠勤についても、ドライバーの長期雇用のためにも必要であるし、「本当に今後も走れるか」というシビアな判断をする上でも有用な制度である。非正規ドライバーも含めて有効に活用していきたい。
このように、同一労働同一賃金の流れは休暇にも及び、もはや「同一賃金」ですらない。
賃金以外の待遇全般については、今一度従業員の雇用区別で整理して見直すことが必要だろう。
【日本郵政事件最高裁判決での休暇関係の結論】
休暇・手当の内容 | 休暇・手当の趣旨・目的 | 結論
(※) |
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夏期冬期休暇 | 夏期・冬期の祝日。
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年休や病気休暇とは別に労働から離れる機会を与えて心身の回復を図る | × |
病気休暇 | 私傷病の際、正社員は有給での休暇/契約社員は無給でしかも年10日に限定 | 解雇を猶予して安心して療養に専念させ、健康回復を図る。 | × |
※〇:格差許される ×:格差許されない