弁護士法人戸田労務経営です。
代表弁護士の戸田が物流・輸送業界の専門誌である輸送経済新聞社で運送業での労務問題についてのコラムの連載についての紹介です。
運輸・物流業界の労務・法律問題に精通した企業側労務専門の弁護士として紹介されております。
輸送経済新聞11月9日号掲載の第6回は運送会社での同一労働同一賃金の考え方について取り上げました。
記事内容をご紹介します。
同一労働同一賃金とは何か⑥
今回は同一労働同一賃金最後のテーマとして、退職金を取り上げる。
退職金に関しても非常に相談が多い。多くの企業では、退職金は正社員だけのものとして制度設計をしていることがほとんどだからだ。
金額が大きく原資確保困難
それもやむを得ない。企業にもよるが、退職金はまとまった金額となる。長年勤続をしていた場合には、相当の金額になるのが一般的だ。毎月積み立てをしなければ支給はできない。契約社員やパート社員にも支給せよとなると、企業の原資確保は相当厳しくなる。
昨年2020年10月13日に最高裁判決が出た東京メトロコマース事件で争われた一大テーマだ。駅の売店業務に従事し、正社員とほぼ同じ業務を行うものの、契約期間が1年で更新される契約社員が、自分に退職金が出ないのは違法だとして訴えた事件だ。
何と19年2月20日の東京高裁では、この請求が一部認められた。正社員の基準の4分の1(25%)は契約社員にも退職金として支給しなければならないというのだ。
退職金が持つ二つの性質
東京高裁が重視したのは、退職金の性質だ。退職金には二つの性質があると言われる。①労務対価の後払い的性質。現役の際に働いた賃金の一部が退職の時にまとめて後払いされるという性質。②長年の勤務に対する功労報償。長期間の勤務で企業に貢献したことに対するねぎらいとしての支給だ=表。
東京高裁は、②の性質を重視した。10年前後の長期間勤務してきたメトロコマースの契約社員にも、功労報償的性格は当てはまるため、一部については退職金を支給すべきとした。この結論からすると、一定の期間継続勤務をした契約社員やパート社員に対しても退職金を支給しなければならないこととなる。企業には、かなり厳しい。
それで注目されたのが昨年10月の最高裁判決だったが、一転して契約社員の退職金請求は完全に否定された。なぜか。一つは、先述の退職金の性質論だ。最高裁は、高裁が重視した功労報償(②)だけではなく、賃金の後払い的性質(①)があることも強調している。日本の賃金は、職務遂行能力や責任の程度など種々の要素を踏まえて、総合的に決定されることが多い。
日本型賃金の典型とも言える「職能給」は、年齢・責任・職務などの評価がごちゃ混ぜになっていて、「職務」で割り切れない。「同一労働」という評価が難しいという理屈だ。
正社員 | 契約社員 | |
①業務内容 | 売店販売業務を行う。ただ、立場は複数売店のエリアマネージャーを担う。また、欠員販売員の補充勤務を行うことがある | 売店販売業務を行うことは同じ。ただ、エリアマネージャーや補充勤務はなし |
②配置の変更(人材活用の仕組み) | 売店以外の部署へ配置転換、職種転換、出向なども命ぜられる | なし |
③その他の事情=正社員登用制度 | 契約社員から正社員に登用されるルートとして正社員登用制度がある。毎年相当数の受験者が降り、一定数が合格している |
正社員の人材確保の目的も
もう一つ、最高裁判決が実質的に重視したのは、正社員の人材確保の観点だ。「正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的」から、さまざまな部署などで継続的に就労することが期待される正社員だけに、退職金を支給することが合理的だという大多数の企業の実態を反映したものだ。
最高裁判決を踏まえれば、今まで通り退職金は正社員だけ、という制度設計もありだ。とはいえ、企業も単にパート・有期従業員に対し、退職金を一律に出さないのではなく、人材活用の仕組みなどにも踏み込んで、正社員だけに「なぜ退職金を支給するのか」を考え、制度設計を見直すことは必要だ。
同一労働同一賃金の判断ポイント、①職務内容の違い②人材配置の違い③その他の事情についての検討。そして、しっかりとした制度説明を行うことだ。
退職金制度は中小企業退職金共済制度(中退共)を始め、積立制度は多数存在する。最近は会社の税金対策と従業員への福利厚生的な制度として、各従業員に保険加入させて退職時に払い戻しを受けるという形をとっている企業もある(保険会社と要相談)。
退職金制度の充実は、正社員に限らず幅広い人材確保につながる面がある。同一労働同一賃金の観点だけではなく、企業での制度の在り方が問われる時代になっている。