弁護士法人戸田労務経営です。
代表弁護士の戸田が物流・輸送業界の専門誌である輸送経済新聞社で運送業での労務問題についてのコラムの連載についての紹介です。
運輸・物流業界の労務・法律問題に精通した企業側労務専門の弁護士として紹介されております。
輸送経済新聞12月14日号掲載の第7回は運送会社での同一労働同一賃金の考え方について取り上げました。
記事内容をご紹介します。
事故を起こしたドライバーの賠償責任
運輸・物流業界では、ドライバーの存在が欠かせない。だが、ドライバーの運転する大小さまざまな車両は、多様なリスクを抱えている。
特に問題になるのは事故だ。トラックの事故は、重大事故に発展することも多く、社会問題に発展することもある。今年6月、千葉県八街市で複数の子どもが犠牲になる痛ましい事故が起きた。
運転ミスで高額な会社負担
そうした中で、会社はドライバーの交通事故を防ぐためのさまざまな取り組みを行なっているが、それでも事故は起きてしまう。
例えば、人身事故にならなくても、ドライバーの単純ミスによる自損事故で車両を大破させてしまった場合は、高額な修理代が発生することもある。
車両保険に加入していればよいが、車両台数が多数に上る企業では、保険料を考慮して加入を見送ることも多いと聞く。
そうなれば、高額な修理代を会社が負担するだけでなく、車両の修理期間中には代車費用に加え、車両を走らせることができず、売上が落ちる休車損害までもが発生しかねない。
事故の原因がドライバーの一方的な過失だった場合、例えば、居眠り運転をした、「ながら運転」をしたなどの問題があった場合、会社が一方的に責任を負うのは、ふに落ちないだろう。
利益を得るなら損害も負う
会社が、こうした損害をドライバーに請求することはできるのだろうか。実はこれは、かなり難しい問題をはらんでいる。
ベースとなる考え方として、「報償責任」というものがある。「会社は、従業員を使って利益を得ている以上、その従業員によって発生した損害についても責任を負うべき」という発想だ。
この考え方に基づき、仮にドライバーの交通事故で他人に損害を与えた場合も、会社が連帯して責任を負いなさい、という考え方に結びつく(民法715条の使用者責任)。
ドライバーの働きで利益を得ている会社も、損害の一定額を負担せよという発想になる。そのため、仮にドライバーが業務中のミスで会社に損害を与えたとしても、その全額をドライバーに負担させることは簡単ではない。
これは1976年の最高裁判例の考え方がベースとされている。
この事件は、タンクローリーのドライバーが車間距離不保持・前方不注視という過失で追突事故を起こしたため、会社がドライバーに損害賠償の負担を求めた事件だ(最判1976年7月8日)。ここでは、ドライバーの負担は、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」に限定されるとされた。負担は25%に限定されたのだ。この最高裁判決の考え方により、実務ではドライバーに全責任が認められることは少ない。25~50%程度に制限されている事案が多い。
最高裁判決は判断要素から
だが、ドライバーの過失が極めて大きいなどの特殊事情がある事例は別だ。
例えば、短期間に複数回の交通事故(居眠り運転含む)を起こしたタクシードライバーの事例では、ドライバーに100%の責任を認めたものもある(東京地判2017年9月22日)。
このように判断が分かれるのは、先の最高裁で挙げられた判断要素が考慮されるからだ。
ドライバーの責任は、事故等の過失の重さだけではなく、会社の事業の正確、事業規模、ドライバーの労働条件、勤務態度、さらには、会社がどこまで事故予防の配慮をしているか、保険に入っているかどうかなどの要素を総合的に考慮して決まる(別表)。
「100%負担します」という念書をドライバーに書かせたとしても絶対ではない。
ドライバーに賠償責任を負わせる場合には、どのような事故で、どの程度の過失があるのかを見極めつつ、その負担額を書面で取り交わしたい。
【ドライバーの賠償責任についての判断要素】
施設(車両)の状況 | 施設や車両に事故の原因があるか |
労働条件 | 事故を起こすほど過酷な勤務かどうか |
勤務態度 | 普段から事故が多いなどの事情があるか |
加害行為の状態 | 事故の過失が重いかどうか |
予防の配慮 | 安全運転教育などで事故予防を徹底していたか |
損失分配の配慮 | 保険に加入しているかどうか |