弁護士法人戸田労務経営です。
代表弁護士の戸田が物流・輸送業界の専門誌である輸送経済新聞社で運送業での労務問題についてのコラムの連載についての紹介です。
運輸・物流業界の労務・法律問題に精通した企業側労務専門の弁護士として紹介されております。
輸送経済新聞1月25日号掲載の第8回は退職した従業員への免許取得費用の請求の考え方について取り上げました。
記事内容をご紹介します。
退職した従業員への免許取得費用の請求
物流・運輸業のドライバーには資格を取得させて、業務させることも多いだろう。
例えば、玉掛け免許がなければ現場での積み込みもままならないため、入社後ほどなくして未経験者に免許を取得させることは、多くあると見られる。その他にも、大型免許を取得希望者に対し免許取得のため、学校への通学費用を支出することもあるだろう。
もちろん会社としては、意欲のある従業員に対してはできる支援を行い、会社に貢献をしてほしいという思いがある。免許を取得し、今までにできなかった業務をこなしてもらえればそれに越したことはない。
ところが問題は、ドライバーが退職する場面で起こる。ドライバーが免許取得した直後に退職してしまった場合は、特に問題となる。
取得した免許を持って同業他社に転職してしまうのであれば、最初から免許の費用など出さなかったというのが本音だろう。最近は大型免許を保有するドライバーは引く手あまたで、条件の良い求人があればすぐに転職されてしまうことも多い。
そこで、「ドライバーに免許取得費用を返せといえるのか」と相談をもらう事案が増えているが、どうなのか。
ルールがないと返却は困難
社内で何もルールもない場合には、返還を求めるのは難しい。
単に会社が業務に関連する費用負担をしただけと考えられてしまうからだ。
最低限、免許取得に関する制度作り、取得費用は会社からの貸付であって、返済をしないといけないことなどを決めておくことが必要だろう。
例を挙げると、
免許取得後●年間継続勤務した場合には、取得費用の返済を免除するが、●年間以内に退職した場合には取得費用を返済しなければならない |
といった書面を交わすことだ。
ただ、一つ問題となるのは、労働基準法16条が定める「賠償予定の禁止」に反しないかという点だ。
つまり、このような規定は、労働者に●年間の継続勤務をある意味義務化する。途中でその義務を破った場合には費用の賠償を求めることを予定するので、賠償予定条項と考えられるからだ。
自身のためか業務に必要か
この点についてのポイントは、「本人が費用を負担すべき自主的な修学(技能習得)」に対する貸付制度となっているかどうかだ(東京地判平成14年4月16日=野村証券事件)。
労働者自身が、専ら自身のスキルアップなどのため、自主的にその免許取得や修学を選択した場合であれば、合法となる。
反面、それが労働者のスキルアップになるとしても、会社が、業務に必要との観点から業務命令で修学や研修を受けさせた場合は自主的とはいえない(東京地判平成10年3月17日=富士重工事件)。これは違法となる可能性が高い。
実際には、当該免許が業務での必要性が高い場合は、会社が経費として負担すべきだと考えられるからだ。
制度を作成し理解と協議を
こうした観点からすると、最初の例での玉掛け免許などは業務での必要性が強いため、返還を求めるのは難しい可能性が高い。
だが、大型免許取得費用は仕組み次第で返還請求は可能だ。図表を参照し、制度作りを検討してほしい。
ただ、最終的には仕組みをドライバーに理解してもらうこと、退職の際にはしっかりと話し合いをしつつ、返済をどこまで求めるかはよく協議することが重要だ。
制度は人が動かすものであって、制度だけあればよいということではない。
ポイント | 内容 |
①会社での免許取得制度という形整える | 会社が支援する免許を選択し、労働者自身が申請書で申請する形にする |
②会社が免許取得費用を貸し付ける形にする | 取得費用は資料添付させるなどして明確に。貸し付けることを明記する |
③免許取得後一定期間の在籍で貸し付けを免除し退職した場合は返還する約束をする | 期間は免許の性質によるが、裁判例からすると最長5年。1~3年程度が無難なことも |
④退職時にはよく話し合って返済の合意を得る | 実際に退職する場合でも一方的給与控除するのは禁物。ここでも話し合うこと |