弁護士法人戸田労務経営です。
代表弁護士の戸田が物流・輸送業界の専門誌である輸送経済新聞社で運送業での労務問題についてのコラムの連載についての紹介です。
運輸・物流業界の労務・法律問題に精通した企業側労務専門の弁護士として紹介されております。
輸送経済新聞8月9日号掲載の第14回は普通解雇について取り上げました。
記事内容をご紹介します。
従業員の退職⑥普通解雇
今回は、実際によく問題となる「普通解雇」について説明する。普通解雇は、労働者の契約違反を理由とした解雇だ。つまり、労働者の「働く義務」が全く果たされていない、十分に果たされていないと評価される場合の契約解除のことだ。
こんな例の相談がある。あるドライバーが大きな物損事故を起こしてしまった。幸い死傷者はいなかったが、一歩間違えれば歩行者を巻き込みかねない大事故になっていた。
ドライブレコーダーを確認してみると、事故の原因はスマホを操作しての「ながら運転」。このドライバーは元々とても事故が多かった。そこで、ドライブレコーダーをさかのぼって確認したところ、ながら運転は日常的に行っていた上に、スピード違反、一時停止無視、あおり運転などが山ほど出てきた。さすがに、こういうドライバーは、解雇できないだろうか、という相談だった。
安全運転は労働義務の一つ
労働者の契約違反という観点で見てみよう。労働者の「働く義務」は、会社が決める。ドライバーなら、指定の場所に車両を運転して、時間通りに荷物の積み下ろしを行うことが労働義務の根幹だ。もちろん、トラックなどの大きな車両を運転する以上は、事故がないように安全運転をすることも重要な労働義務の一部をなす。
だからこそ、交通法規を守ることや事故のない運転を行うことはドライバーとして当然かつ、基本的な義務の一つなのだ。上記のドライバーは、基本的な「働く義務」を怠っているのは明らかだ。
重大な違反にも改善の機会
では、当然のように契約解除、つまり普通解雇ができるのか。通常の取引では、重大な契約違反があれば即時解除も認められるだろうが、解雇は違う。労働契約は特殊なのだ。
労働契約法16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を乱用したものとして、無効とする」とされている。一見して、よく分からない条文だが、「社会通念」という言葉があるように、社会の考え方に応じて解雇の判断も変化し得ることを示している。
使用者が解雇を自由に行い、労働者を搾取してきた歴史への反省があるため、一般的に解雇のハードルは高い。
義務違反となる行動があっても1発で解雇が認められることは少ない。問題行為が発覚した際には注意・指導を繰り返して、改善の機会を与えよと言われる。解雇紛争の裁判では「どんな注意、指導をしたのか」と裁判官に指摘されるのが日常茶飯事だ。
上記の事例のようなひどい交通違反がある場合、プロのドライバーにも改善の機会が必要なのか、と疑問に思うこともある。ただ、現状の「社会通念」では、最後の機会を与えてもなお、改善が見込めない場合に初めて解雇が認められるという判断になりがちだ=表。
労働契約というのは、まさに「人」そのものを継続的に使うことに本旨のある契約だからこそ、労働義務への違反行為というのも長い目で見なければならないのだろう。
ただ、転職市場で即戦力になるような労働者なら、この「社会通念」もやや緩和されて使われている面もある。人の見極めというのは本当に難しいものだ。