相談内容
経営状況が厳しくなったため、我が社では従業員の人件費の削減を検討しています。
従業員の労働条件を変更する方法を教えてください。
POINT
労働条件の変更は、①労働者の同意、②就業規則の変更、③労働協約の変更などによって変更することができますが、いずれも要件が厳しいため、簡単ではありません。
相談が特に多い業種(産業別)
□建設業 ☑製造業 ☑情報通信業 □運輸・郵便業(トラック運送業)
☑卸売・小売業 □金融業・保険業 □不動産・物品賃貸業
☑宿泊・飲食業(ホテル・飲食店等) ☑教育・学習支援(塾・予備校等)
☑医療・介護福祉業 ☑サービス業
※労働条件の変更に関しては、製造業、情報通信業、卸売・小売業、宿泊・飲食業(ホテル・飲食店等)、教育・学習支援(塾・予備校等)、医療・介護福祉業、サービス業等で特に多い相談ですが、様々な業種で多くの相談があります。
1 労働条件を一方的に不利益変更することは許されない
基本的には、労働条件の変更を会社が一方的に行うことはできません。
労働契約法は、「使用者と労働者の合意によって労働契約の内容である労働条件を変更できる」と規定されています(労働契約法8条)。
ただ、たとえば賃金をアップしたり、賃金据え置きで労働時間を短縮する等、労働者の利益になる変更であれば、特に問題は起きにくいでしょう。
問題は、賃金の削減などの労働条件の不利益変更です。これは容易ではありません。
次のような方法をとる必要があります。
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2 ①従業員の同意によって労働条件の変更を求める方法
さきほどお話ししたとおり、従業員との合意があれば、労働条件の変更が可能です。
では、たとえば賃金カットする際、単に「賃金を●●%カットすることに同意します」という同意書を取り付ければ労働条件の変更が認められるのでしょうか。
いいえ。そう簡単ではありません。
特に賃金の削減というのは、労働者の賃金請求権の放棄を意味します。
労働基準法で定められた賃金全額払いの原則(労働基準法24条)の例外になりますので、裁判所はかなり厳しい判断をしています。
シンガーソーイングメシーン事件(最二判昭48年1月19日) 退職金請求権の放棄が問題になった事件ですが、「労働者による賃金債権の放棄がされたというためには、その旨の意思表示があり、それが当該労働者の自由な意思に基づくことが明確でなければならない」と判示しています。 |
仮に「放棄します」の一筆を取っていたとしても、それだけではダメでしょう。
生活の糧になる賃金を放棄することを納得できる説明は当然前提となるでしょうし、さらに言えば、賃金放棄の見返りとなる労働者のメリットが何らか必要になるケースが多いのではないでしょうか。
会社としては、少なくとも次のような対応が必要でしょう。
【労働条件の不利益変更の同意をとるプロセス】 A 従業員に労働条件の変更内容について具体的な不利益(見通し)を十分に説明する。 B 労働条件の変更に同意するかどうか、十分な検討期間を与える。 C 同意する場合は、その不利益内容を踏まえた同意書を作成する。 D 不利益が大きい場合は、何らかの見返りを与えるのが望ましい。 |
3 ②就業規則を変更する方法
次に、就業規則で定められている労働条件を変更する際、就業規則自体を変更することを行う方法もあります。
⑴ 労働者に就業規則の変更の同意を求める場合
就業規則を不利益変更についても、労働者の同意があれば可能です(労働契約法9条の反対解釈)。
山梨県民信用組合事件(最二小判平成28年2月19日)では、就業規則の変更についても、先ほどと同じように「労働者の自由意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する」必要があると判断しています。
簡単には認められません。
⑵ 労働者の同意なく、一方的に就業規則を変更する場合
いわゆる就業規則の不利益変更の問題です。
この場合、就業規則の変更が合理的なものである必要があります(労働契約法9条、10条)。
変更後の就業規則を周知させるだけではなくて、次の事情に照らして合理的である必要があります。
総合判断ですが、慎重に検討する必要があります。
【就業規則の不利益変更の合理性を判断する際の要素】 A 労働者が受ける不利益の程度 B 労働条件の変更の必要性 C 変更後の就業規則の内容の相当性 D 労働組合等との交渉の状況 E その他の就業規則の変更に係る事情 |
4 ③労働協約の変更
労働者が労働組合に加入している場合、会社が労働組合と団体交渉を行って労働協約を妥結すれば、組合員の労働条件を一括して不利益変更することが可能です(労働組合法14条)。
5 労働条件の変更をする場合は、弁護士への相談をおすすめします。
このように、労働条件の変更は、単に同意を得ればよいというものではありません。
非常に難しい判断が求められますので、安易に労働条件を切り下げるのは禁物です。
突然従業員から労働審判や民事訴訟を起こされることがあります。
会社として多大なコスト・リスクがかかる可能性があります。
こうしたリスクを避け、適正な労働時間の管理を行うためには、労働実務を踏まえた判断・手続が不可欠ですので、法的な労務管理の専門家の労働弁護士に相談するのが一番です。
もし、会社として適切な労働時間の管理の方法を検討しているのであれば、労働弁護士のフォローを随時受けながら、適切な方法で行っていくことが不可欠です。
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