【相談内容】
会社としては、従業員の解雇を検討しています。ただ、会社の理由は、経営不振や勤務態度が悪いことなど、複合的な理由です。解雇にも色々あると聞いたのですが、解雇の種類によっても法律での決まり方が違うものなのでしょうか。 |
回答
まず、会社が行った処分として解雇を進めるべきか、そしてその理由についても特定して進めるのするのがよいでしょう。
解雇は、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の三種類があり、それぞれ有効かどうかの判断も違います。
解説
1 解雇とは何か~自主退職との区別
⑴ 解雇の定義
解雇とは、使用者による一方的な労働契約の解約と言われます。
逆を言うと、労働者が退職について承諾する余地があれば解雇ではありません。
解雇通知書や解雇予告通知書、さらには解雇理由証明書等が書面で出されているケースでは解雇は明らかです。
ですが、実際には「解雇」とはっきりと言っていないでも、労働者から「解雇された!」と訴えられるケースも多くあります。
⑵ 解雇と自主退職の境界線
次の場合はどうでしょう。
例1)会社が「明日から来なくていい」「お前の仕事はもうない」等と言って急に仕事を外した。 |
例2)会社が「これ以上働いてもらったら困る。辞めたければ辞めろ」と言ったので、会社に来なくなった。 |
例3)従業員から退職届が提出されたが、「失業保険のために会社都合退職にしてほしい」と強く希望されたため、会社が離職票の手続のために解雇通知を出した。 |
例1の場合は、会社の退職に向けた強制力が強いので、解雇と判断されやすいでしょう。
これに対して、例2は微妙です。例2は、一応労働者側も退職に応じた側面もありますので、解雇と判断されないこともあり得ます。他の色々な事情によって判断は変わります。
例3の場合は、労働者側の退職意思は明確ですので、形だけの解雇通知がどのように扱われるかは微妙な事案です。
⑶ 解雇されたかどうか迷った場合も弁護士に相談を!
会社から強引に止めさせられた、という場合は、必ず解雇通知書や解雇理由証明書の交付を会社に求めるべきです。
特に、解雇理由証明書の交付は労働基準法22条2項において会社に義務づけられています。
もし、そうしたものがなくても、争うことはできます。
ただし、その判断は非常に微妙なケースが多いので、労働事件を専門に扱う弁護士に相談すべきです。
→解決事例
2 解雇の種類
解雇には、大きく分けて、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の三種類があります。
そして、それぞれの解雇は、その理由や性質を異にするものですので、自ずとその限界や法規制も異なっています。
これから詳しく説明します。
⑴ 普通解雇とは
普通解雇というのは、懲戒解雇と区別されて使われる概念ですが、いわゆる労働者の債務不履行を主たる理由とした解雇である、と言うことができます。
普通解雇は通常、就業規則にその理由が列挙されます。たとえば、次のようなものがあります。ここでは種類の指摘にとどめておきます。
詳しくは、「不当解雇をされた方へ」をご覧下さい。
ア 傷病・健康状態の悪化による労働能力の低下
「身体・精神の障害により業務に耐えられないとき」と、就業規則で規定されることが多いです。
イ 能力不足・成績不良・適格性の欠如
文字通り、会社での仕事をする能力や適格がない、という理由の解雇です。
ウ 職務懈怠・勤怠不良
無断欠勤、遅刻・早退過多、勤務態度や状況の不良、協調性が欠けること等が理由となる解雇です。
エ 職場規律違反・不正行為・業務命令違反
特に問題となるのは、日常的な業務指示・命令を聞かなかったり、配転や出向の命令に背く等の業務命令違反のケースです。
⑵ 整理解雇
整理解雇とは、会社が経営不振の打開や経営合理化を進めるために、人員削減を目的として行う解雇をいいます。いわゆるリストラの一環です。
普通解雇とは区別しないこともありますが、普通解雇とは違って、整理解雇の場合は、労働者には何らの非もないのに会社から一方的に解雇されてしまうのですから、当然その要件は厳しくなります。
整理解雇が認められるためには、次の4要件(または4要素)を満たす必要があるといわれます。
単に「経営が苦しいから解雇」という安易な解雇では、まずこの要件を満たさないでしょう。
ア 人員削減の必要性があるかどうか
いわゆる余剰人員を削る必要があるかどうかです。
近年の裁判例では、人員削減しなければ企業が倒産する、というところまで切迫した必要性は求めていません。
イ 会社が解雇回避努力義務を行ったかどうか
解雇は最後の手段です。会社は、解雇を回避する努力を行う必要があります。
たとえば、解雇をする前に、新規採用の停止、役員報酬カット、昇給停止、賞与の減額・停止、時間外労働の削減、非正規労働者の雇止め、一時帰休、希望退職者募集、配転・出向等の様々な人件費削減措置をとる必要があります。
ウ 解雇される人物を選んだことに相当性があるか(被解雇者選定の妥当性)
恣意的に選ぶことは許されません。個人的に気にならない、という理由での選定は不相当です。勤務成績を考慮することや、解雇による打撃が少ない人物を選ぶ、等合理的な基準が必要です。
エ 労働者・労働組合への説明・協議を十分におこなったか(手続の妥当性)
会社としては、上記アからウの事情はもちろん、整理方針や手続・規模や解雇条件等、様々なことを労働者に説明しなければなりません。
⑶ 懲戒解雇
制裁罰としての解雇です。労働契約の不履行を理由として行われる普通解雇とは全く違います。
会社内の刑罰によって会社から追い出される、つまり、労働者にとっては「死刑」に等しい重大な処分です。
懲戒解雇の有効性は、普通解雇に比べても、非常に厳しく判断させる傾向にありますので、会社が懲戒解雇処分を検討する場合等は必ず弁護士に相談することをお勧めします。
→詳しくはこちらをご覧下さい
(4) 諭旨解雇
諭旨解雇(ゆしかいこ)とは、従業員が重大な不祥事や規律違反を起こした際に、会社側が従業員に対して退職届の提出を促す解雇の形式です。
この方法は、従業員の名誉を守るために用いられることも多く、従業員が退職届を提出して退職に応じた場合は、自己都合退職として扱われます。
ただし、従業員が退職に応じない場合には、基本的には懲戒解雇に進むことが想定されている、重い処分の一つです。
3 解雇を考える企業は、直ぐに弁護士に相談することをおすすめします。
⑴ 会社が解雇をするかどうかの判断は慎重に
このように解雇の処分は、生活に非常に大きな不利益をもたらしますので、非常にハードルが高いです。
また、処分の無効と共に、払われない賃金の請求を早期に求められますので、金銭的な影響はかなり大きい。
しかし、問題があったとしても、解雇するかどうかについては、会社が相当に慎重に対応しなければなりません。
安易な解雇を選択してしまったことで、数百万以上もの金銭を支払わないといけなくなった事案も多くあるのです。
⑵ 適切な解雇は弁護士に相談
今までお話したとおり、各解雇については、事実関係をしっかりと検討しつつ、契約書や就業規則等を踏まえ、法律的な判断の下に見通しを立てることが不可欠です。
解雇をするためには相当前から準備をしなければなりませんが、労務の専門弁護士が対応をしっかり行えば、有効な解雇処分を行うことも可能です。
戸田労務経営では、解雇理由が実際にある事案では、適切なプロセスを行っていくことで解雇有効との心証を裁判所に得られた事案が数多く存在します。
解雇を検討する企業は、労働問題に詳しい弁護士に、直ぐにご相談下さい。
→具体的な解決手段はこちら