相談内容
先日、会社から、突然人事異動を命じられました。
東京本社から仙台支店への配属変更(いわゆる配転)になります。
ですが、私は会社に入社した時に、東京本社で働いてくれ、と言われていて、転勤(配転)が予定されるなんて聞いたことはなかったです。
私には、東京で働く妻と幼い子どもがいますので、この転勤で私は単身赴任になってしまいます。
転勤(配転)には応じたくないのですが、何か問題はありますか。
回答
転勤命令(配転命令)は、根拠規定があれば会社に広い裁量があります。
ただし、労働者の不利益が特に大きい場合等には裁量権が濫用として無効となる場合があります。
入社の時点で勤務地が東京に限定されている場合も配転命令(配転命令)は無効です。
こうした人事異動については、配転以外にも、出向・転籍など類似の措置もあり、それぞれ法律上の意味合いが違うので要注意です。
解説
1 人事異動(配転・出向・転籍)の内容
人事異動とは、会社組織の中の労働者の配置・地位や勤務状況を変えることを総称したものです。
そのうち、労働者に大きな影響を与える、配転(配置転換)・出向・転籍については、非常に相談の多いところです。
配転(配置転換)・出向・転籍は、それぞれ法律上の規律が全く違いますので、まず、それぞれの区別が重要です。
2 配転(配置転換)に関するご相談
⑴ 配転(配置転換)とは
配転(配置転換)とは、労働者の配置の変更であって、職務内容又は勤務場所が相当長期間にわたって変更されるものです。
たとえば、同じ会社内で、東京本店から仙台支店へ勤務場所が移る等のいわゆる「転勤」は、この配転(配置転換)にあたることが多いでしょう。
⑵ 配転(配置転換)は会社の裁量が大きい
配転(配置転換)は、日本企業の人事制度の中枢に位置する制度と言われます。
企業は、正社員を新規採用後、配転(配置転換)と内部昇進によって人材の育成と活用を図ることが予定されていることが多いのです。
そうしたことから、配転(配置転換)は、会社の人事権の一つとして位置づけられます。
会社に配転(配置転換)命令権が認められる場合は、会社は、その業務上の必要があれば、かなり自由に配転(配置転換)をすることが許されます。
⑶ 配転(配置転換)の根拠
もちろん、配転(配置転換)は労働者の生活に大きな影響をもたらしますから、自由に行うことはできません。
雇用契約書等での合意があるか、もしくは就業規則でその根拠規定が定められていることが前提となります。
【規定例】 会社は業務上の必要があるときは配転を命じることがある。 |
⑷ 配転(配置転換)命令が無効になる場合
① 勤務地・職種を限定した契約をしている場合
たとえば、雇用契約の際、「勤務地は東京本店に限る」(勤務地限定)、「職種は看護師に限る」(職種限定)との限定がある場合です。
この場合、限定された勤務地や職種の限りで、会社が配転(配置転換)命令権を持つことになります。したがって、この限定に反する配転(配置転換)命令は無効になります。
② 配転(配置転換)命令の権利濫用1~不当な動機・目的
不当な動機・目的による配転(配置転換)命令は無効です。
たとえば、退職に追い込もうとする意図でなされる場合や、会社内の内部通報をしたことを動機とする配転(配置転換)は許されません。
③ 配転(配置転換)命令の権利濫用2~生活上の不利益が大
また、労働者の職業上・生活上の不利益が非常に大きく、「通常甘受すべき不利益の程度」を超える場合も、配転(配置転換)が無効となります(東亜ペイント事件―最高裁昭和61年7月14日判決等)。
この判断は、業務上の必要性との兼ね合いになりますので、個別の事案ごとの判断が必要です。
たとえば、要介護状態の年老いた親や、転勤が難しい家族を抱えていて、転居が難しいケース等では、配転(配置転換)命令が濫用と判断されやすくなります。
これに対して、単に単身赴任を強いられるだけでは、「通常甘受すべき不利益の程度」を超えないことが多いでしょう。
⑸ 配転(配置転換)命令への対応策・相談の勧め
このように、まず、配転(配置転換)の根拠があるかどうかを確認します。
契約書を確認して、職種限定や地域限定がないかどうかもチェックすべきでしょう。
権利濫用となるかどうかの判断は難しいところです。
配転(配置転換)は、業務命令として行われることが多いので、拒否することで会社から解雇されてしまうこともあり得ますので、対応は難しいところです。
迷ったら弁護士へ相談するのがよいでしょう。
3 出向に関するご相談
⑴ 出向とは
出向とは、労働者が出向元との労働契約を維持しつつ、相当期間、出向先の指揮命令の下で就労することを言います。
別の会社の下で働くことになる点で、配転(配置転換)とは大きく違います。
⑵ 出向命令権の根拠があるか?
出向は、上述のとおり、労務提供の相手が変わる上、労働条件が大きく変わることになるので、配転(配置転換)と同列には扱えません。
そのため、単に就業規則に「出向を命じることができる」と定められるだけで出向命令権が正当化されるわけではないのです(大阪高裁平成17年1月25日判決参照)。
こうした包括的な規程に従って出向命令をするためには、出向先での賃金・労働条件、出向の期間、復帰の仕方などが出向規程等によって整備される等、労働者の利益に配慮されていることが前提になります。
結局、出向に関する基本的な事項が、しっかりと契約内容に盛り込まれていることが重要になります。
出向命令権の判断は個別の事案ごとになります。
たとえば、入社時点で、グループの関連会社間での出向が日常的に行われるとの説明がされて、労働者が同意していた場面であれば、出向命令権は肯定されやすくなります。
これに対して、全く関連のない会社への出向であれば、やはり出向規程等の十分な整備は不可欠ですし、その他労働者の利益になる条項が盛り込まれているかを検討する必要があります。
⑶ 出向命令が権利濫用とならないか?
出向命令権が認められたとしても、権利濫用となる命令は無効です。
ここは、配転(配置転換)命令の権利濫用でお話ししたこととほぼ同じ内容が当てはまります。
⑷ 出向命令への対応・相談の勧め
このように、出向命令がされた場合でも、その根拠があるかどうかが重要です。
契約書、就業規則はもちろん、出向に関する取り決めなどを詳細に検討する必要があります。
さらに、その出向の目的等に問題がないかどうかをチェックして、権利濫用になるかどうかも確認すべきでしょう。
ここでも、その判断が難しい場合は弁護士への相談をお勧めします。
4 転籍に関するご相談
⑴ 転籍とは
転籍とは、従来の使用者(転籍元)との労働契約を終了させ、新たに別会社(転籍先)との労働契約関係に入ることをいいます。
出向との一番の違いは、転籍元との労働契約が終了する点にあります。
つまり、転籍というのは、転籍元の会社との間では、労働契約を合意解約(合意による退職)することを前提に、新しい別会社との間で、新しい労働契約を締結する、という行為に分解されます。
ケースによっては、会社使用者の地位が譲渡されるケースもあります。
⑵ 転籍命令は不可能
いずれにしても、このように労働者が退職するという意味を持つ以上、転籍については、労働者の同意が必要です。会社が一方的に転籍を命じることはできません。
⑶ 転籍を命令された場合の対処等
時折、会社側がこうした理屈を知らないままに転籍を命令してくることがありますが、応じるつもりがないのであれば、同意をしないことが肝要です。
もっとも、会社も、応じない場合に解雇などの強硬な手段をとってくるケースもあります。解雇権濫用になる可能性は高いですが、対応には注意が必要でしょう。
5 トラブルに発展しそうな場合は弁護士に相談を!
以上のとおり、配転(配置転換)、出向、転籍は、法律的には全く規制が違っていますが、どれも似たような制度ですので、安易な判断は禁物です。
特に、こうした人事に関する命令は、業務命令として会社が一方的にすることがありますので、拒否した場合のトラブルというのが非常に多い傾向にあります(解雇・懲戒処分につながります)。
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会社とのトラブルを防ぐためには、労働案件の経験のある弁護士への相談は不可欠かと思います。
お悩みの場合はすぐご相談していただくことをお勧めします。
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