弁護士法人戸田労務経営です。
代表弁護士の戸田が物流・輸送業界の専門誌である輸送経済新聞社で運送業での労務問題についてのコラムの連載についての紹介です。
運輸・物流業界の労務・法律問題に精通した企業側労務専門の弁護士として紹介されております。
輸送経済新聞8月10日号掲載の第3回は運送会社での同一労働同一賃金の考え方について取り上げました。
記事内容をご紹介します。
物流の労使・法律トラブル 第3回 「同一労働同一賃金とは何か③=運送会社での同一労働同一賃金・長澤運輸事件」
今回取り上げるのは、前回と同じく、運送会社のドライバーの同一労働同一賃金が問題となった長沢運輸事件(最高裁2018年6月1日第二小法廷判決)だ。
セメント・液化ガスなどを扱う運送会社で、バラセメントタンク車のドライバーが、正社員との待遇の差について訴えを起こした。
定年後の再雇用で待遇変化
訴えを起こしたドライバーは60歳で定年を迎え、再雇用嘱託社員として契約社員となったが、現役の正社員時代に支給されていた基本給や各手当、賞与の支給がなくなった。
そのため、ドライバーは同一労働同一賃金のルール違反だという主張をした(旧労働契約法20条)。
会社の規模はそれほど大きくはないため、転勤はない。現役のドライバーも、定年後の嘱託ドライバーもタンク車を運転して運送業務を行う。
仕事内容は全くと言っていいほど同じである。
前回取り上げたハマキョウレックス事件では、同じ仕事に携わる非正規雇用のドライバーに対する手当の不支給の大半が不合理とされた。
一見すると、今回も会社側に非常に厳しい判断が出されるように思われた。
だが、そうはならなかった。長沢運輸事件では基本給を始め、住宅手当や家族手当、賞与において待遇に格差があっても、同一労働同一賃金には違反しないと判断されたのである。
同じ業態で、同じドライバーなのに、長沢運輸事件とハマキョウレックス事件では、どうして違いが出たのか。
定年後再雇用という事情
大きかったのは、「定年後再雇用」という事情だ。
労使の間で労働組合を通じて、定年後再雇用の制度設計について、しっかりと協議を重ねたことも重要なポイントになった。
同一労働同一賃金の問題は、仕事内容・責任や配置が同じかどうかという条件だけでは、違法かどうかは決まらない。「その他の事情」も重要な要素となる。
日本での定年制度は、長期雇用や年功処遇を前提とする中で、一定の年齢での人事刷新を図るものだ。賃金コストが青天井にならないようにする目的もある。
そのため、定年後に再雇用をする場合は、長期間雇用は通常予定されていない。
だからこそ、例えば、住宅手当や家族手当のような生活費補助の手当の差があることも合理的とされている。
正社員には幅広い世代がいるので、それぞれのライフステージで、定年後世代よりも生活費が多くかかる可能性が高いと言えるからだ。
基本給も同じだ。長沢運輸では、嘱託ドライバーに対し、成果に応じた歩合給の比率を現役世代よりも格段に多くした。
腕のよいドライバーは、年齢に関係なく売り上げを上げることができる。それまでは年功的な賃金だったところを、各ドライバーの成果に応じた給与体系に変えていくのは合理的だ。
労使協議が重要な要素に
もう一つ重要な点は、労使の話し合いである。
裁判所は「労働者の賃金に関する労働条件のあり方について、基本的には、団体交渉などによる労使自治に委ねられるべき部分が大きい」と言う。
要するに、賃金や労働条件を決めるのは労使協議であって、法律ではない。
どのような待遇にするのかを綿密に話し合い、労使双方で合意できていれば、多少の待遇の違いがあっても納得のいく制度づくりはできる。
まとめ
いま、ドライバーの人材不足は深刻で、年齢層のボリュームも定年前後に偏っている。60歳を超えても能力の高いドライバーは沢山いるため、定年でドライバーを一律に切るという会社は少ないと思う。
私が見る限り、多くの運送会社のドライバーで同一労働同一賃金が問題となるのは、この高齢者雇用についてである。
歩合給の組み方も含め、ドライバー全体が納得のいく制度を協議することが重要だ。