【弁護士解説】東京メトロコマース事件最高裁判決の労務実務への影響【同一労働同一賃金】 | 弁護士による企業のための労務問題相談

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【弁護士解説】東京メトロコマース事件最高裁判決の労務実務への影響【同一労働同一賃金】

弁護士法人戸田労務経営の所長弁護士の戸田です。

大阪医科大学(大阪医科薬科大学)事件・東京メトロコマース事件最高裁判決が先日10月13日に出されました。

同一労働同一賃金については、2018年にハマキョウレックス・長澤運輸事件最高裁判決が出され、世間の注目を集めました。

そして、2019年12月には厚労省から同一労働同一賃金のガイドラインが確定し、パート・有期労働法の改正も今年2020年4月1日から施行されています(中小企業は2021年4月)。

中小企業を始めとした各企業では、同一労働同一賃金への対応を早急に行う必要に迫られ、待ったなしで規則改正・賃金制度の見直し等を進めていました。

そんな中、対応方法で一番の悩みがあったのは、賞与と退職金です。

これらについては、いずれも正社員のみを対象とした制度設計が現在は大多数です。

同一労働同一賃金に沿ってパート・有期労働者に一律に適用すると、各企業の固定費の増加にとどまらず、賞与や退職金制度の位置づけと企業内の従業員の在り方を含め、相当に大きなインパクトがあります。

2020年10月13日に出された大阪医科大学(大阪医科薬科大学)事件最高裁判決、メトロコマース事件最高裁判決は、これらについて一定の判断を示したもので、極めて大きな意味を持ちます。

人事労務管理への影響も多大であるため、詳細に分析を試みました。

 

東京メトロコマース事件最高裁判決の事案

まずは事案内容です。

東京メトロコマースでは、正社員・契約社員A・契約社員Bという3つの雇用区分があります。

X2は平成16年4月,第1審原告X1は同年8月,それぞれ契約社員Bとして第1審被告に採用され,契約期間を1年以内とする有期労働契約の更新を繰り返しながら,東京メトロの駅構内の売店における販売業務に従事していた。第1審原告X2については平成26年3月31日,第1審原告X1については同27年3月31日,いずれも65歳に達したことにより上記契約が終了した。

【雇用形態・配属等の比較】

まずはその区分に従った配属等の社内区分に関し、最高裁に認定事実を整理してみました。

 

正社員

契約社員A

(H28.4~職種限定社員)

契約社員B

雇用形態

無期・フルタイム

契約期間を1年とする有期労働契約を締結

H28.4~無期に変更

契約期間を1年以内とする有期労働契約を締結

規則

正社員用

契約社員A用

契約社員B用

定年

65歳

同期間満了後は原則として契約が更新され,就業規則上,定年(更新の上限年齢)は65歳

65歳

配属

本社の経営管理部,総務部,リテール事業本部及びステーション事業本部の各部署に配置されるほか,各事業本部が所管するメトロス事業所,保守管理事業所,ストア・ショップ事業所等に配置される場合や関連会社に出向する場合もあった。平成25年度から同28年度までにおける第1審被告の正社員(同年度については職種限定社員を含む。)は560~613名であり,うち売店業務に従事していた者は15~24名であった。

契約社員Bのキャリアアップの雇用形態として位置付けられ,本社の経営管理部施設課,メトロス事業所及びストア・ショップ事業所以外には配置されていなかった。

一時的,補完的な業務に従事する。

 

労働時間

本社では1日7時間40分(週38時間20分),売店勤務では1日7時間50分(週39時間10分)

 

大半の者が週40時間と定められていた

職務限定

なし

あり?

あり(業務の場所の変更を命ぜられることはあったが,業務の内容に変更はない)

人事異動

業務の必要により配置転換,職種転換又は出向を命ぜられることがあり,正当な理由なく,拒むことはできない。

 

配置転換や出向を命ぜられることはなかった。

【賃金等の待遇の比較】

次に、賃金等の待遇面についての最高裁の認定について社員間の比較を表にしました。

 

正社員

契約社員A

(H28.4~職種限定社員)

契約社員B

体系

月給制

月給制

時給制

内訳

(基準賃金)

本給(年齢給※1+職務給※2),資格手当又は成果手当,住宅手当、家族手当

(基準外賃金)

年末年始勤務手当,深夜労働手当,早出残業手当,休日労働手当,通勤手当

※1年齢給:18歳の5万円から始まり,1歳ごとに1000円増額され,40歳以降は一律7万2000円

※2職務給:三つの職務グループ(スタッフ職,リーダー職,マネージャー職)ごとの資格及び号俸により定められ,その額は10万8000円から33万7000円まで。

・本給16万5000円

・深夜労働手当,早出残業手当,休日労働手当,早番手当,通勤手当その他の諸手当が支給

本給は業務内容,技能,経験,業務遂行能力等を考慮して個別に定める,

X入社時は一律1000円であったが,平成22年4月~毎年10円ずつ昇給。

年末年始出勤手当,深夜労働手当,早出残業手当,休日労働手当,通勤手当,早番手当,皆勤手当(資格手当又は成果手当,住宅手当、家族手当は支給なし。)

昇給

昇格・昇給制度あり

本人の勤務成績等による昇給制度あり

 

賞与

年2回

平成25年度~同29年度までの各回の平均支給実績 本給の2か月分に17万6000円を加算

年2回の賞与(年額59万4000円)が支給

年2回(各12万)

退職金

退職金規程により,計算基礎額である本給に勤続年数に応じた支給月数を乗じた金額を支給

支給しない

(H28.4の職種限定社員に変更された後は退職金制度が設けられた)

支給しない

褒賞

勤続10年及び定年退職時に金品が支給

なし

なし

【Xの雇用契約の内容】

就業場所

リテール事業本部メトロス事業所管轄METRO’S売店

業務の内容

売店における販売及びその付随業務

所定労働時間

1日8時間以内(週40時間以内)

【業務内容と正社員登用制度】

続いて、売店業務に従事する従業員についてです。

 

正社員

契約社員A

(H28.4~職種限定社員)

契約社員B

従業員数

18

14

78

平成28年3月には,売店業務に従事する従業員が合計56名に減少し,このうち正社員は4名となった。

共通する業務

売店の管理,接客販売,商品の管理,準備及び陳列,伝票及び帳票類の取扱い,売上金等の金銭取扱い,その他付随する業務

代務業務

販売員が固定されている売店において休暇や欠勤で不在になった販売員に代わって早番や遅番の業務を行う

正社員と同様

行わない

エリアマネージャー業務

複数の売店を統括し,売上向上のための指導,改善業務や売店の事故対応等の売店業務のサポートやトラブル処理,商品補充に関する業務等を行う

正社員と同様

行わない

正社員登用制度

契約社員B⇒契約社員A,契約社員A⇒正社員への登用制度が平成22年度から導入。

原則として勤続1年以上の希望者全員に受験が認められていた。

平成22年度~同26年度,契約社員Aへの登用試験につき受験者合計134名のうち28名が,正社員への登用試験につき同105名のうち78名がそれぞれ合格。

 

争点

期間の定めのある労働者に対して退職金を支給しないことが労働契約法20条にいう不合理な取り扱いになり違法となるか

 

東京高裁の判断

 東京高裁では以下のように判断し、Xの請求を一部認めました。

一般に,退職金には賃金の後払い,功労報償等の様々な性格があるところ,長期雇用を前提とする無期労働契約を締結した労働者(以下「無期契約労働者」という。)に対し,福利厚生を手厚くし,有為な人材の確保及び定着を図るなどの目的をもって退職金制度を設ける一方,本来的に短期雇用を前提とした有期労働契約を締結した労働者(以下「有期契約労働者」という。)に対し,これを設けないという制度設計自体は,人事施策上一概に不合理であるとはいえない。

もっとも,第1審被告においては,契約社員Bは契約期間が1年以内の有期契約労働者であり,賃金の後払いが予定されているとはいえないが,原則として契約が更新され,定年が65歳と定められており,実際に第1審原告らは定年により契約が終了するまで10年前後の長期間にわたって勤務したことや,契約社員Aは平成28年4月に職種限定社員として無期契約労働者となるとともに退職金制度が設けられたことを考慮すれば,少なくとも長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金,具体的には正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する額すら一切支給しないことは不合理である。

したがって,売店業務に従事している正社員と契約社員Bとの間の退職金に関する労働条件の相違は,労使間の交渉や経営判断の尊重を考慮に入れても,第1審原告らのような長期間勤務を継続した契約社員Bに全く退職金の支給を認めない点において,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たる。

⇒契約社員Bにおいて、契約更新が長期間継続した事実関係を重視。

 

最高裁の判断

ベースとなる考え方について

最高裁は、まず以下のようにして退職金の不支給についての労働条件の相違が労働契約法20条違反になり得るとの規範を示しました。

労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の格差

が問題となっていたこと等を踏まえ,有期契約労働者の公正な処遇を図るため,その労働条件につき,期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり,両者の間の労働条件の相違が退職金の支給に係るものであったとしても,それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。

もっとも,その判断に当たっては,他の労働条件の相違と同様に,当該使用者における退職金の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより,当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである。

これは、リーディングケースとなっているハマキョウレックス事件(最二小平成30年6月1日)を引用していないものの、その判断基準は同じです。一足先に出された大阪医科大学事件最高裁判決ともおおむね同様の言い回し。

 

退職金の性質

続いて、最高裁はYでの退職金の性質を次のように判断しています。

第1審被告は,退職する正社員に対し,一時金として退職金を支給する制度を設けており,退職金規程により,その支給対象者の範囲や支給基準,方法等を定めていたものである。

そして,上記退職金は,本給に勤続年数に応じた支給月数を乗じた金額を支給するものとされているところ,その支給対象となる正社員は,第1審被告の本社の各部署や事業本部が所管する事業所等に配置され,業務の必要により配置転換等を命ぜられることもあり,また,退職金の算定基礎となる本給は,年齢によって定められる部分と職務遂行能力に応じた資格及び号俸により定められる職能給の性質を有する部分から成るものとされていたものである。

このような第1審被告における退職金の支給要件や支給内容等に照らせば,上記退職金は,上記の職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払い継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり,第1審被告は,正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から,様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものといえる。

退職金の性質論としては東京高裁の認定判断と大枠は異なっていないと思います。しかし、東京高裁は、その性質論からストレートに当てはめているのに対し、最高裁では、メトロコマースで退職金がなぜ正社員に対してだけ支給されているのかという目的についても踏み込んでいます。

正社員が様々な部署で配置されることを想定し、その人材確保や定着を狙った制度として退職金を設けたという点です。退職金制度の目的認定が結論への前振りになっています。

ところで、最高裁は、メトロコマース退職金の算定ベースの賃金性質にも遡っているのが面白い。ここでの賃金は日本型賃金の典型である「職能給」(年齢と職務ごちゃ混ぜ)なので、退職金の性質としても、賃金後払い・功労報酬的性質が強くなるという理屈でしょう

これは、最高裁が、日本の旧来型の基本給に同一労働同一賃金で踏み込むことに線引きをした姿勢とも受け取れます。

ふと、退職金を保険積立方式等にしている場合はどうだろうかという気もしますが、それでも退職金の性質が変動するわけではないですよね。

 

業務内容と業務の責任の程度

 ここは、上記の表のとおり、Xの業務の内容の違いや配置転換の可能性について言及しています。

両者の業務の内容はおおむね共通するものの,正社員は,販売員が固定されている売店において休暇や欠勤で不在の販売員に代わって早番や遅番の業務を行う代務業務を担当していたほか,複数の売店を統括し,売上向上のための指導,改善業務等の売店業務のサポートやトラブル処理,商品補充に関する業務等を行うエリアマネージャー業務に従事することがあったのに対し,契約社員Bは,売店業務に専従していたものであり,両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できない。

また,売店業務に従事する正社員については,業務の必要により配置転換等を命ぜられる現実の可能性があり,正当な理由なく,これを拒否することはできなかったのに対し,契約社員Bは,業務の場所の変更を命ぜられることはあっても,業務の内容に変更はなく,配置転換等を命ぜられることはなかったものであり,両者の職務の内容及び配置の変更の範囲(以下「変更の範囲」という。)にも一定の相違があったことが否定できない。

 

その他の事情として売店業務正社員がレアであること+正社員登用制度を指摘

 上記以外の「その他の事情」についても触れています。

最高裁では、不合理じゃないことを説明する際には「その他の事情」に色々な事情を盛り込んでくる傾向がありますね。

第1審被告においては,全ての正社員が同一の雇用管理の区分に属するものとして同じ就業規則等により同一の労働条件の適用を受けていたが,売店業務に従事する正社員と,第1審被告の本社の各部署や事業所等に配置され配置転換等を命ぜられることがあった他の多数の正社員とは,職務の内容及び変更の範囲につき相違があったものである。

そして,平成27年1月当時に売店業務に従事する正社員は,同12年の関連会社等の再編成により第1審被告に雇用されることとなった互助会の出身者と契約社員Bから正社員に登用された者が約半数ずつほぼ全体を占め,売店業務に従事する従業員の2割に満たないものとなっていたものであり,上記再編成の経緯やその職務経験等に照らし,賃金水準を変更したり,他の部署に配置転換等をしたりすることが困難な事情があったことがうかがわれる。

このように,売店業務に従事する正社員が他の多数の正社員と職務の内容及び変更の範囲を異にしていたことについては,第1審被告の組織再編等に起因する事情が存在したものといえる。

また,第1審被告は,契約社員A及び正社員へ段階的に職種を変更するための開かれた試験による登用制度を設け,相当数の契約社員Bや契約社員Aをそれぞれ契約社員Aや正社員に登用していたものである。

これらの事情については,第1審原告らと売店業務に従事する正社員との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり,労働契約法20条所定の「その他の事情」(以下,職務の内容及び変更の範囲と併せて「職務の内容等」という。)として考慮するのが相当である。

 売店業務に従事する正社員がレアという認定をして「その他の事情」で使っています。これは大阪医科大事件の教室職員の正社員がレアという事情を「その他の事情」で検討したのと同じです。

 

勤続年数が長かった点はどうか

 高裁判決では、契約社員Bが長期雇用を想定していることを重視したベクトルでした。しかし最高裁は以下のようにあっさりとこの点を排斥しています。

第1審被告の正社員に対する退職金が有する複合的な性質やこれを支給する目的を踏まえて,売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容等を考慮すれば,契約社員Bの有期労働契約が原則として更新するものとされ,定年が65歳と定められるなど,必ずしも短期雇用を前提としていたものとはいえず,第1審原告らがいずれも10年前後の勤続期間を有していることをしんしゃくしても,両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは,不合理であるとまで評価することができるものとはいえない。

 

 

職種限定社員に退職金制度が設けられたことはどうか

 また、Xら契約社員Bと同じく期間の定めのある契約社員である契約社員Aについては、職種限定社員という無期雇用区分に変更されて退職金が支給されるようになりました。

 契約社員Bと同じ立場の契約社員Aにも退職金が出るのであれば、契約社員Bに対しても退職金を支給しないと不合理だという論建てがあり得るところですが、最高裁は以下の通り判断しました。

契約社員Aは平成28年4月に職種限定社員に改められ,その契約が無期労働契約に変更されて退職金制度が設けられたものの,このことがその前に退職した契約社員Bである第1審原告らと正社員との間の退職金に関する労働条件の相違が不合理であるとの評価を基礎付けるものとはいい難い。

また,契約社員Bと職種限定社員との間には職務の内容及び変更の範囲に一定の相違があることや,契約社員Bから契約社員Aに職種を変更することができる前記の登用制度が存在したこと等からすれば,無期契約労働者である職種限定社員に退職金制度が設けられたからといって,上記の判断を左右するものでもない。

 結局、契約社員AとBには差があるでしょう、ということが根底にあります。

林景一裁判官の補足意見

 補足意見については、より企業の実情に踏み込んだ「本音」が垣間見えます。最高裁が重視したのは、結局のところは退職金をどうやって決めて、どうやって運用しているかという企業の実態です。

 退職金は,その支給の有無や支給方法等につき,労使交渉等を踏まえて,賃金体系全体を見据えた制度設計がされるのが通例であると考えられるところ,退職金制度を持続的に運用していくためには,その原資を長期間にわたって積み立てるなどして用意する必要があるから,退職金制度の在り方は,社会経済情勢や使用者の経営状況の動向等にも左右されるものといえる。そうすると,退職金制度の構築に関し,これら諸般の事情を踏まえて行われる使用者の裁量判断を尊重する余地は,比較的大きいものと解されよう。

長澤運輸事件の冒頭に述べられたことにも若干被る気がします。労働条件の決定については各企業の実情や労使交渉を経て決定すべきとの理屈ですね。

退職金には,継続的な勤務等に対する功労報償の性格を有する部分が存することが一般的であることに照らせば,企業等が,労使交渉を経るなどして,有期契約労働者と無期契約労働者との間における職務の内容等の相違の程度に応じて均衡のとれた処遇を図っていくことは,同条やこれを引き継いだ短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条の理念に沿うものといえる。

現に,同条が適用されるに際して,有期契約労働者に対し退職金に相当する企業型確定拠出年金を導入したり,有期契約労働者が自ら掛け金を拠出する個人型確定拠出年金への加入に協力したりする企業等も出始めていることがうかがわれるところであり,その他にも,有期契約労働者に対し在職期間に応じて一定額の退職慰労金を支給することなども考えられよう

 上記については、企業の取るべきあり方が示唆されているような印象ですが、正直理論的とは言い難いところもあります。

 

労務管理への対応について(私見)

最高裁の結論について

 以上から、最高裁は退職金の不支給を違法ではないと判断しました。

 メトロコマースの契約社員については職務内容がかなり正社員と共通した事例でして、しかも勤続年数もそれなりです。この事案で退職金が認められなかったとなれば、事実上、労働者が裁判所で退職金の待遇格差を争うのはかなり厳しくなった印象です。

 最高裁の判断は決して論理的とは言い難い面もありますが、結局は「退職金」という性質・支給目的を最大限重視したのだと思います。もとより日本の同一労働同一賃金は、労働契約の合意原則に対する例外的な「法の介入」出会って抑制的に考えるべきとの見解もあります(土田道夫教授など)。

 個人的には、退職金についてはその性質論や支給目的について企業の個別判断を尊重することが重要と考えます。これを抜きに、法が退職金制度の改定を後押しするのは流石に労働契約法理にそぐわない。

 この最高裁の結論自体は妥当なものであると思います。

 

 

最高裁判決を踏まえての対応

 最高裁判決は旧労働契約法20条についてのものですが、この規定はパート・有期労働法8条に引き継がれているため、今後も先例としての重要な意味を持ちます。

 最高裁の判断として、パート・有期従業員に一切退職金を払わなくてもよいという話にはなっていませんが、上で述べたとおり、この事案で否定された影響は大きいです。事実上裁判実務では退職金を争うのは結構厳しい。

 とはいえ、企業でも単にパート・有期従業員に退職金を一律に出さないというのではなく、人材活用の仕組み等にも踏み込んで、正社員になぜ退職金を支給するのかについての制度設計をきちんと見直すことは必要です。

 退職金制度の在り方についても重要。慰労金的なものを裁量で出すとしていた慣行でやってきた会社も、支給基準を考えておく必要はあります。

 最高裁の認定からすれば、旧来型の勤続年数に従って支給係数を乗じる方法でも、長期雇用確保の目的に資する制度となりますが、その内容を含めてしっかりと退職金規程を整備しておきたいです。

 また、最高裁でも触れられていた正社員登用制度等、正社員へのルートを開けたものにしておくことは結構重要かもしれません。

 重要なことは労使交渉・協議を重ねる。少なくともしっかりとした制度説明を行うことです。これは長澤判決から一貫したベクトルでして、パート・有機労働法においても求められる説明責任でしょう。

 以上のように労務管理について非常に大きな判決となっています。

 

 

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