1 運輸業界の企業の皆様へ(業界の基本情報)
物流を支える運輸業は、我々の生活を支える大切な産業です。物流が止まれば経済が止まるとも言われるほど、我々の経済活動の基盤をなしています。
運輸業界全体の市場規模は約43兆円(旅客運送約14兆円、物流約29兆円)であり、特に物流業においては平成28年から現在まで継続して右肩上がりの状況もあり、経済規模の面からみても重要な産業です。
① 小口化・多頻度化
eコマースの拡大などにより物流件数自体は増加傾向が見られます。
しかし出荷1件あたりの貨物量は減少しており、小口化・多頻度化の傾向が、運送効率性の低下や負担の増加につながっていると指摘されています。
出荷1件あたりの貨物量(出典:国土交通省「第9回全国貨物純流動調査」)
② 少子・高齢化の進展と若年者の労働力不足
統計によりますと、道路貨物運送業の賃金水準は全産業平均と比較すると低い水準で推移しており、その一方、年間労働時間は全産業平均と比較すると長時間となっています。労働者の特徴については、例えばトラック輸送産業に関するデータを見ますと、中高年層の男性労働力に強く依存していることもわかり、50歳以上が全体の45.2%を占め、女性比率は就業者全体でみると20.1%と低い状況にあることが分かっております。
出典:公益社団法人 全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業 現状と課題2022」
2 運輸業によくある労務トラブル(リスク)とその実態
① 長時間労働による残業代請求事件
運輸業はその業務の特性から長時間労働になりがちです。
荷主の都合による荷待ち時間についても、「労働時間」とカウントされる事案がほとんどですので、休憩時間を確実に取得させなければ、拘束時間の大部分が労働時間として扱われてしまいます。
運転者は使用者の目の届かないところで勤務するため労働時間管理が曖昧になりやすく、紛争リスクは極めて大きいものです。
特にここ数年、運送業をターゲットにした残業代請求事案は非常に多くなっています。
請求額が1件数百万円を超える事案はザラで、1000万円程度になる事案も珍しくありません。
2020年4月の民法改正によって残業代請求権の消滅時効が2年から3年に伸びました。2023年4月発生分以降は、残業代請求の金額が従前の1.5倍になるので、リスクはより高まります。
定額残業代制度についても企業側に厳しい判決が続いており(国際自動車事件=最高裁2020年3月30日第一小法廷判決など)、完全歩合給制度を採用する動きも活発になっているところです。
また、厚生労働省改善基準告示や貨物自動車運送事業法等によって、通常の労働時間管理に上乗せされた特別な規制が課されており、それらに違反した場合には行政処分等を受けるリスクもあります。
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② 2024年の働き方改革への対応
上記と関連しますが、2024年からは、それまで運輸業では適用猶予がされていた労働基準法の時間外労働の上限規制が適用されることとなります。
時間外労働は年間960時間が上限となりますが、手待ち時間や土日運行が多いドライバーにおいて、その目標達成は容易ではありません。
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③ 高齢者ドライバーの労務管理
ドライバーの高齢化に伴って、その雇用のあり方にも注意を払う必要があります。
2021年4月より高年齢者雇用安定法が改正され、70歳までの雇用継続が努力義務となっておりますが、高齢ドライバーについての定年後の雇用契約、定年後再雇用の就業規則の整備が必要となります。
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④ 同一労働同一賃金の問題
同一労働同一賃金の問題の先駆けとなった最高裁の事案は運送業でした(長澤運輸事件とハマキョウレックス事件)。
ドライバーの場合、契約社員や定年後の嘱託社員と正社員とが全く同じ業務を行っていることも珍しくありません。職務内容や責任、人材活用の仕組み等が同じ場合には、賃金、手当、待遇等についての同一労働同一賃金の問題が出てくるケースが非常に多いです。
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⑤ 労働災害リスク
ドライバーの長時間労働は、脳・心臓疾患や精神疾患の発症リスクと考えられており、労働災害が生じる危険をはらんでいます。
ひとたび労働災害が発生すれば、民事上の損害賠償責任のみならず刑事上・行政上の責任をも問われる可能性があるため、安全衛生面の管理に注意を払うことも極めて重要です。
この観点からも、適切な労務管理が必須な業種と言えます。
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3 弁護士法人戸田労務経営の運輸業への対応事例の紹介
① 解決事例・顧問対応事例
弁護士法人戸田労務経営では、多数の運送業企業の顧問として、上記の問題を対応しています。
働き方改革のための長時間労働・拘束時間の削減
働き方改革のために長時間労働と拘束時間の削減が課題の企業で、長時間労働是正と働き方改革のコンサルティングを対応しました。毎月、デジタルタコグラフの労働時間・拘束時間のデータを分析、営業所ごとの長時間化の原因を分析しつつ協議し、それぞれの時間削減に成功しています。
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就業規則・賃金制度の改革の対応
長期間就業規則や賃金規程等が手つかずの運送会社について、制度整備のコンサルティングを対応しました。運送業特有のドライバーの管理を含めた就業規則の改訂、賃金制度についても歩合給の導入だけではなく、適切な固定残業代をミックスさせる制度を導入することで、よりリスクの少ない制度作りを進めた事案です。
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重大事故を起こす従業員への対応
重大事故を起こしたドライバーについての解雇・退職について検討しました。 従業員への懲戒だけでなく、解雇を見据えた対応を行った事案ですが、ドライバー側に明らかな重過失があった事案であったため、損害の一部についても負担させるという形での合意を取り交わし、解雇を回避して合意退職に至った事案です。
ドライバーに賠償責任を負わせたいというご要望はよくあるのですが、実際には法的にはかなりハードルが高いです。法的リスクを回避した適切な対応を取らなければ、カウンターパンチを受けるリスクが高いです。
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② 運輸・運送業に強い弁護士法人
物流・輸送業界の専門誌である輸送経済新聞社で運輸・物流業界の労務・法律問題に精通した企業側労務専門の弁護士として紹介され、「物流の法務・労務トラブル」を2021年〜2023年、毎月定期連載しております。
- 連載記事はこちら
また、物流ウィークリーで「運送業に強い弁護士」として事務所紹介を受けております。
(物流ウィークリー https://weekly-net.co.jp/s_roumu/47018/)
4 労務応援コンサルティングの勧め
弁護士法人戸田労務経営では、運輸・運送業の労務の全分野に渡るトータルサポートを実現します。
① 運輸・運送業の特性に応じた日常の労務・法務アドバイス
② 運輸・運送業に特化した雇用契約書・就業規則等の整備
③ 運輸・運送業特有の書面・契約関係についてのチェック・書面作成対応
④ 運輸業に起きる紛争・トラブルを予防するための制度作り
⑤ 運輸業に起きる労使紛争の迅速な代理対応サポート