弁護士法人戸田労務経営です。
代表弁護士の戸田が物流・輸送業界の専門誌である輸送経済新聞社で運送業での労務問題についてのコラムの連載を始めました。
運輸・物流業界の労務・法律問題に精通した企業側労務専門の弁護士として紹介されております。
輸送経済新聞6月15日号掲載の第1回は同一労働同一賃金の基本について取り上げました。
記事内容をご紹介します。
「物流の労使・法律トラブル 第1回 同一労働同一賃金とは何か」
連載では、運輸業界にまつわる労務問題や法律問題について取り上げていく。今回はまず、「同一労働同一賃金」について説明する。
働き方改革の一環で、大企業では2020年4月から、中小企業でも今年4月から法律(短時間・有期雇用労働法)で施行された。既に全ての企業でスタートしているホットな労務テーマだ。
ドライバーに関する事件も
同一労働同一賃金は、数年前に長沢運輸事件、ハマキョウレックス事件などの著名な最高裁判決が出て、世間でも大きな話題となった。いずれも運輸業での運送ドライバーに関する事件だった。
ドライバーは、有期雇用でも正社員でも、やる仕事は同じことが多い。同一労働同一賃金の問題にぶつかりがちなのだ。彼ら・彼女らの待遇を考える上で、いまや同一労働同一賃金を無視することはできない。
さて、同一労働同一賃金とはどういうものか。意外と、まだよく分からないという読者も多いのではないか。
文字通り読むと、「同じ労働に対して同じ賃金を払う」、「仕事単位で賃金や待遇を決める」制度のように見える。これは、最近ジョブ型雇用などと表現されることもあるが、正確ではない。
正社員と非正規の格差是正
日本型同一労働同一賃金は、誤解を恐れずに言うと、「会社は、非正規雇用労働者(パートや契約社員)に不当な差別をするな」という、非正規雇用労働者の待遇格差禁止令だ。
あくまでも、正社員と非正規との間での差別を禁止しただけで、正社員と正社員の間では問題にはならない。
例えば、全く同じ仕事をしているドライバーの間で、基本給や賞与の額が違っていても、同一労働同一賃金の問題になることはない。少し言葉のイメージとは違っている。
というのも、もともとの同一労働同一賃金という制度は、産業別組合がメインとなる欧米で発展した制度だ。つまり、欧米では「仕事=ジョブ」が細分化され、仕事を横並びで評価する。いわゆるジョブ型雇用というものだ。労働者も採用される時点でジョブがはっきり決められ、評価も明確にされる。この仕事は企業の垣根を超えているため明確だ。これなら「同一労働」に対して「同一賃金」を払う、ということは理解しやすい。
これに対して、日本は違う。従来の日本の雇用は、「会社」という組織の会員になるという「メンバーシップ型」と言われている。労働者もどんな仕事をするのか曖昧なままに入社し、給与は仕事ではなくて年齢や勤続などの「人」に対して決められることが多い。これでは、「同一労働」をどう見ればよいのかわからない。
日本型同一労働同一賃金は、非正規雇用労働者の低待遇を改善・救済するためのもの。第一次安倍政権時代に検討されていたアベノミクスの柱の働き方改革だ。パート社員や契約社員などの多様な働き方を認めて、誰もが働けるようにと、一気に導入が進んだ。
思い返せば、少し前まで、正規雇用労働者と、パートや契約社員などの非正規雇用労働者の待遇の格差は当然だったと思う。
パートや契約社員にボーナスや退職金が出ないのは当然、住宅手当や家族手当その他の各種手当も正社員だけの特権。これが当たり前だった。だが、いまはもうダメだ。事案にもよりけりだが、「格差が当たり前」という発想はもう捨てなければならない。
次回は、同一労働同一賃金の問題などについて取り上げる。